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留三郎が撃沈した。
昼休み、グリーンの可愛い包みを持った彼女が2年1組の教室の前にいるのを目撃したからだ。一緒にいた彼女の友達らしい女の子が呼んだのは仙蔵の名前。ふたりで渡しに来たんだろうか、仙蔵は先輩後輩問わず人気あるからなぁ。ファンクラブもあるとかないとかいう話だし。

「っ……!」
「あっ、留三郎っ」

あの子が仙蔵にチョコレートを渡す姿なんて直視できないからか、留三郎は逃げるように3組の教室に入っていく。追い掛けようとした僕が滑って転んでる間に、留三郎は自分の机に突っ伏していた。どよんとした空気を漂わせてて、だからそういうのはチョコを貰えなかった奴がするべきなんだけど。さすがに空気を読んでその発言は控えた。

「仙蔵の野郎……あの子からも貰うのかよ……貰ったチョコレートの量が既に段ボール2箱目なことを俺は知ってるんだぞ……畜生……」
「モテない男の僻みみたいになってるよ。あと3箱目だよ」
「仙蔵爆発しろ。……伊作、俺はもう駄目かもしれない。介錯は頼んでいいか」
「全力でお断りだよ。大丈夫、仙蔵が彼女と付き合うことなんてきっとないよ」
「それはあの子に対する侮辱か?あの子に魅力がないと言いたいのか?」
「どうしよう留三郎が面倒くさい」

文次郎じゃなかっただけましじゃないか、なんて言っても何の慰めにもならないだろう。困った。
次第に何を言っても返事も返さなくなって、僕は諦めて暫く置いておくことにする。そのうち文次郎と喧嘩でもして元気になることを期待して。去年みたいに貰ったチョコの数を競ったり馬鹿げたことをしてくれたら、ちょっとは忘れられるんじゃ……無理か。






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