ろくねんせいと

「裏裏裏裏裏山まで行って採ってきたんだ!うまいぞ!」
「……ん」

怪士丸が戸を開けたそこに待っていたのは今までとは比べ物にならないほどの山だった。この多くは七松小平太によるものだろうと皆が思ったが、ボーロも山のあちらこちらにあるのを怪士丸は見逃していない。
六年長屋まで来た頃には、一年生の誰もが少なからず感付いている。だから南瓜の被り物がふらりと離れたのも自然と見ない振りをした。無邪気にお菓子の山を喜ぶ振りをした。

「好きなものばかりだ。はは、食べきれるかな」
「ちょっと張り切りすぎたか?」
「……最後だからな」
「そうだな、もう卒業なんだもんな」
「……お前も」
「うん、そうだね、卒業だ」

きっと彼は、遠くない過去の誰かなのだろう。自分たちとは出逢わなかった、自分たちの先輩だった誰か。
どういうことがあったとか、そういうことは一切分からないけれど、きっと彼は誰かの友だちで、誰かの同室で、誰かの大切なひとだった。

「そんな顔するなよ。皆と一緒に卒業できて、嬉しいよ」

どうしてそんな彼が此処にいるのかは分からないけれど、この祭りはきっとそんな彼と彼らの為のものなのだろう。

それでもこの部屋にいるのはお菓子を運びだす間だけ。わざとゆっくりしていても、終わりの時間はやってくる。最後のひとつを手に取ると、怪士丸はそっと部屋を振り返った。
そこにはもう南瓜の被り物はいなくて、視線に気付いた中在家長次が怪士丸の頭に大きな手を乗せる。

「……ありがとう」

優しいその声に、怪士丸は噛み締めるように視線を落とした。
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