ごねんせいと

失礼しまぁす、そう声を掛ける前に戸が開いて、一年生は慌てふためき影に隠れた。そのため先頭に立ってしまった伏木蔵は、背中にしがみつく平太をよしよしとあやしながら「こんばんはぁ」戸の向こうにいた上級生に挨拶をする。なかなかに大物であった。

「待ってたぞ!待ちくたびれた!」
「こら三郎、驚かせちゃ駄目じゃないか」
「おほー、大丈夫か?」

戸を開けたのは鉢屋三郎だろう、そしてそれをたしなめる不破雷蔵と、一緒に待っていたらしい竹谷八左門。部屋の中にはまた菓子やなんやが山のようになっていた。虫みたいなのが見えるのは、見なかったことにしていいかなぁと伏木蔵は考える。

「沢山用意して待ってたぞ」
「何にしようか悩んで、全部買っちゃったんだ」

勿論全部持っていけと言われて、一度長屋に戻ってよかったなぁと思いながら皆が運び始める。そんな中、南瓜の被り物が上級生たちのもとへ行くのを伏木蔵は訝しく思いながら眺めていた。平太が頑としてそちらを見ないようにしているのも不思議だけれど。

「相変わらずだな、お前は」
「はは、言われてるよ、三郎」
「お前と雷蔵になら何と言われても構わない」
「俺に厳しいのも相変わらずだろ……?」

それでも、聞き覚えのない低い声に、三郎にしがみつかれているその様子に、伏木蔵は何となく理解した。平太が見ないようにしている理由も。
こんなスリルも悪くない。こわがりな平太には悪いけど、伏木蔵はお菓子を運ぶ手をわざと遅らせた。だってゆっくりやらないと崩れて下敷きにちゃうかもしれないもの、と己の不運を言い訳に。
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