友人Ζの憂鬱 1

本来ならば好きな女の子のことで頭がいっぱいなこの日に、話したこともない女の子のことで悩むことになるとは、去年の僕は考えもしなかっただろう。



「……落ち着きなよ留三郎」
「何を言う伊作。俺はこんなにも落ち着いてるじゃないか」

何でもない顔をこっちに向ける留三郎は、けれど立ち止まることができないようにあっちへこっちへうろうろと歩き回っている。そわそわして落ち着きがないのは明らかだ。思わず出る溜め息、止める術を僕は知らない。

僕の親友、食満留三郎には好きな子がいる。名前は知らないし、話したこともないらしいけど、それでも好きな子がいる。なかなか声を掛けるタイミングが掴めず遠くから見ているだけの毎日。留三郎が情けないのか僕の不運が移ったのかは考えないでおこう。

そして進展どころか始まってさえないまま迎えたバレンタインデーの今日。落ち着きが欠片もない留三郎は、まさか彼女からチョコを貰えないだろうかと期待しているわけじゃないだろう。さすがに留三郎もそこまで夢見がちじゃない筈だ。ただ、彼女が特定の男子と親しくしている様子はないと安心していた留三郎も、今日ばかりは誰かにチョコを渡すんじゃないかと不安に心配になっているのだと思う。

「そんな心配したって、知り合いでもない君じゃ彼女に彼氏ができてもどうすることもできないだろう?」
「べ、別にそんな心配してねぇよ!……」
「……否定した後で本気でへこむのやめてよ」

この日にへこんでいいのはチョコレートを貰えない男子だけなんだからね。クラスの女の子に数が足りなかったって言われてひとりだけ義理チョコも貰えなかった僕に謝れ。



 


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