善法寺伊作と

「まさかあのタイミングで転けるとは思わなかったなぁ」

お酒を飲んだなまえはいつもその話を口にする。彼女がけらけら笑う度に僕の心を抉るその話は、一年前の僕らの結婚式のことだ。
教会でのウエディング。誓約で舌を噛むこともなく、指輪の交換で指輪を落とすこともなく、誓いのキスでキスする場所を間違えることもなく、無事に式を終えようとしたとき。教会を出て、フラワーシャワーに迎えられたときだ。花弁を踏んで階段を転げ落ちたのは。
そこでかよ!と親友の突っ込みと友人たちの笑い声に包まれたその場、しーんとなるよりはよかったけれど、僕は羞恥に苛まれた。不運だ。転けたのが不運というより、一世一代の晴れ舞台に泥を塗る羽目になったことが。

「あんまり思い出したくないんだけどなぁ」
「いいじゃない、伊作らしくて」

僕がぼやくとなまえは笑う。そういえばそのときも誰より大口開けて笑っていたのはなまえだ。彼女がそんなだから、僕も文句を言うわけにいかず苦笑いするしかなかった。
僕らしいって言われても嬉しくないけど、今更否定してもなまえは聞かないだろう。僕は溜め息を吐いて、いつもと同じ言葉で話を締めくくった。

「もう君が笑ってくれるなら、それでいいや」

君がずっと笑っていてくれるなら、それでいい。
君が隣にいるかぎり、不運であっても不幸ではないんだから。




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