食満留三郎と

「やっぱり、白無垢がいいわ」

ぱら、ぱら、と一定の間隔で雑誌を捲るなまえは、しかしその殆どを読んでいないのだろう。ウェディング特集の組まれたその雑誌に白無垢などひとつも出てきていなかった。
なまえの隣で俺は相槌を打つ。体勢としては雑誌を覗き込むようにしているが、俺もまた意識は雑誌にない。なまえの言葉の方が大切なのは当然だろう。

「昔からとても憧れてたの。お姫様みたいでしょ」
「今の時代じゃドレスの方が『お姫様』なんだろうけどな」
「ドレスはドレスで憧れるけれど、幼い頃に親がフリルの沢山ついたものを着せてくれたから充分よ」
「俺は見てない」
「写真でいいなら探しておくわね」

あの頃に白無垢を着れるなんてよっぽどいいところの娘だけだったから、そういった意味でも憧れが強いんだろう。「留三郎はどうしたい?」なまえが訊くが、俺としてはなまえの希望を第一に叶えてやりたいため異論はない。くすくすと控えめに笑うなまえにはきっと白無垢が似合う筈だ。勿論、ウェディングドレスであっても文句なしに似合っただろうが。

「そうと決まれば資料請求やり直さねぇとな」
「これには載ってなかったものね」

いつの間にか閉じられていた雑誌をテーブルに置き、なまえはふうと息を吐いて俺に身を寄り掛からせた。「幸せだわ」上目遣いになって微笑むなまえに、「幸せだな」応えた俺の顔はだらしなく緩んでいるかもしれない。
昔は互いの道を進むことを選んだから、叶わない夢だった。ずっと想っていたけれどこうして平和に過ごすことなんてできなかった。学舎を出てからは互いの消息も掴めず、再会は互いに武器を手にして、互いの血で濡れて、それでも。

「もっとずうっと、幸せにしてね」

俺たちはようやく同じ道を歩いていける。
幸せすぎて死んじまうかもな、とは、冗談であっても言わないけど。




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