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ばらばらと降ってきたそれに、なまえは目を丸くした。箱をひっくり返した小平太が頭上で笑っている。
虐めか何かかと思ったけれど、すぐにそうではないだろうと気がついた。落ちてきたそれをひとつ手に取り、しげしげと眺める。

「これ……花?」

造花だった。布で作られているらしいそれは生花よりも少し重みがある。若干痛いと思ったのはそのせいだろう。

「花を贈ろうと思ったんだが、今の季節に花はなかなか手に入らないからな。金吾と四郎兵衛に教えてもらったんだ。で、体育委員会全員で作った!」

ふたりはきり丸に教えてもらったらしいと補足して、小平太は箱を置く。
手先が器用なのはパペット・ギニョール作りで分かっていたが、こんなものまで作るのか。なまえは感心しながら、ゆっくりと思考を落ち着かせた。
よく見れば花にもそれぞれ特徴が窺える。作りが荒く大きいのが小平太、派手な色合いは滝夜叉丸、花弁がちぐはぐなのが三之助、ふんわりと仕上げているのは四郎兵衛で、きっちりしているのが金吾だろう。
目に入る中で一番大振りな花を手に取り、なまえは眉尻を下げて微笑んだ。

「なんでいきなり花なの?」
「なんだっけ……マンネリ防止?」
「……誰に言われたの」
「仙蔵だ!」
「立花あの野郎」

きっとまた面倒なことを考えたのだろう。はっ倒したいけどあんまり関わりたくないな、と彼らの部屋の方を睨む。代わりに同室者に文句を示すかと考え、頭を掴む手にはっとした。

「ま、待った!」
「ん?」

また捻られては堪らないと声を上げ振り返ろうとするが、むしろ固定するように押さえ込まれる。何がしたいのかと焦るなまえに、「出来た!」小平太は喜色あらわに声を上げた。
離れる手と、残る違和感。触られていたところに触れようとすると小平太の手がそれを阻止した。

「それが一番上手く作れたんだ」
「……わざわざつけなくても」
「ははっ、そう言うな。可愛いぞ!」

この部屋に高価な鏡があるわけもない。確認することもできないが、よっぽどの自信作なのだろう。仕方ないとそのままにしておくなまえは、彼に対して甘くなっているなと自覚する。一度きちんと躾でもしてみるべきか。流されるわけにはいかないと考える彼女は犬と同位に位置づける。

「用はこれだけ?」
「ああ」
「じゃあ、後輩が待っているから私は戻るわよ」

手裏剣の打ち方を教える約束をしているのだ、あまり待たせるわけにはいかない。連れ去られる様は目撃されているから約束を違えたわけではないと理解は得られるであろうが、それとこれとは別だった。

「今度から、用があるときは事前に言って。私にだって予定があるんだから」
「合わさせてくれるのか?」
「……そうするだけの価値があるならね」

箱に造花を詰め直し、なまえはそれを抱える。これに関しては素直に嬉しいと思う。巻き込まれたのだろう体育委員たちにも、何かしら礼をしなければなるまい。
そうだ、礼がまだだった。無理矢理連れられたことは今は置いておくことにして、なまえはにっこりと微笑んでみせる。

「ありがと、小平太」

部屋を出る前に振り返れば、小平太は満足げに笑っていた。






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