僕らの明日

「真下、悪い!一緒にあいつら探してくれ!」

屋上と階段を繋ぐドアを開けて飛び込んできたのは富松くんだった。その周りに神崎くんと次屋くんはいなくて、代わりに握られたのは切れた縄。ふたりを連れてから合流すると言っていたけれど途中で逃げられたのだと分かった。

「また居なくなったの?」
「ケータイは?」
「ふたりとも置いていきやがった!」

やれやれ、といった空気が流れるなか、三組のふたりが訊く。頭を抱える富松くんの答えは予想通りすぎて苦笑するしかない。
「何のためにジーピーエス機能付きにしたと思ってんだ!」泣きそうな富松くんを、まあまあと宥めながら私は迷子探しを手伝うために腰を上げた。富松くんを手伝うのは私の役目だ。同じクラスだから、友達だから。

「孫兵、ケータイ貸して」
「はい」

孫兵の携帯電話はジュンコちゃんの待ち受け画像が可愛いシンプルなものだ。見つけたときに連絡が取れなければ探し人が増えるだけだから、私も捜索に駆り出されるときはいつも借りている。
それを受け取る、けれど、富松くんは難しい顔のままじっとこっちを見ていた。急がなくていいのかと首を傾げると、富松くんが口を開いた。

「……お前も自分のケータイ持たねぇか?」
「迷子探しのためだけに?無理だよ、そんな理由じゃ確実に却下されるよ」
「いや、それだけじゃなくて……その……」
「言い淀むことでもないだろ、作兵衛。僕らも時枝ちゃんとメールしたり電話したり、もっと仲良くしたいなってことだよ」
「数馬くん……!」

言いにくそうにする富松くんに、数馬くんが笑って後の言葉を引き継ぐ。数馬くんの言うことが本当なら嬉しい。どうなんだろうと富松くんの様子を窺えば、富松くんは複雑そうに頷いた。
皆と仲良くなれるなら、携帯電話がすごく魅力的に思える。一度お母さんに相談してみようかな、孫兵や数馬くんと連絡を取るため、って言ったら買ってもらえるかもしれない。

「あれ、数馬、いつの間に真下と名前で呼びあうようになったんだ?」
「こないだ時枝ちゃんの家で遊んだとき」
「いつの間に?!」

首を傾げる浦風くんに数馬くんが答え、富松くんが驚く。実際は散歩に出掛けたジュンコちゃんを数馬くんが孫兵の家に送ってくれて、ジュンコちゃんを探しに行っていた孫兵が帰ってくるまで私の家で待ってただけなんだけど。そのまま三人でおやつを食べたりしたから、嘘は言ってない、のかな。
ああそういえば、お母さんがまた遊びにおいでって言ってたっけ。それを伝えると、数馬くんは「本当?嬉しいなぁ」にこにこ笑ってくれた。

「親とも仲良くなってんのかよ……」
「俺も真下と遊びたいな。今度俺たちも行っていいか?」
「うん。でも、私の部屋あんまり広くないんだよね……孫兵の部屋は?」
「いいけど、ジュンコやキミコたちと一緒だよ」
「女の子の家に遊びに行く予習と、蛇や虫のいる家に遊びに行く予習が必要だな……」
「お母さんに挨拶する予習も必要だね」

孫兵の部屋は私の部屋より広かった筈だけど、ジュンコちゃんやキミコちゃんの部屋でいっぱいだ。皆に移動してもらうわけにもいかないし、やっぱり私の家か。ちょっとくらい狭くても大丈夫かな、我慢してもらおう。行く方向かよ、なんてつっこみを入れる富松くんも一緒に遊んでくれると嬉しい。それに神崎くんや次屋くん、も……

あ。

「ふたりのこと忘れてた!探さなきゃ!」
「あっ、やべえっ!」

しまった、この話はまた後で。彼らが敷地の外に出てしまう前に迎えにいかないと!高等部の校舎には行っていないことを祈って、私と富松くんは三人に見送られながら走り出す。階段を駆け降りて、すぐの廊下で左右に別れる。

「そっちは頼んだぞっ、真下!」
「うんっ」

富松くんは友達を見つけるため。
私はそれに加えて友達の手伝いのため。
お互いの心配はしないでいい。迷子のふたりを見つけるまで、私たちは走る、走る。

これが私と富松くんの、新しい関係。
私と皆の、新しい日常。




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