03

ちづるはくのたまである。肌の手入れも化粧の仕方も叩き込まれており、その結果自分の顔がどんな評価を受けるのか客観的に見れるようにもなっていた。だから『可愛い』に部類する顔だとは自覚している。
よってちづるが素っ頓狂な声を上げたのはその評価に驚いたわけでなく、何言ってんだこいつこの状況で、という心境からであった。

「長次にな、可愛い子が好きだと言う話をしたんだ」
「はあ、で?」
「私が好きなのは可愛い子ではなくて、ちづるに似てる子だろうと言われた」
「……はあ?」
「考えたことがなかったと言えば、ちづるに会ってみればいいと言われた」
「中在家はっ倒す」
「で、こうしてみれば確かにちづるは一等可愛いと思った」
「泣かせた意味が分からん」
「痛そうな顔も可愛いから、泣き顔も可愛いのか確認だ」

泣かされる側は非常に迷惑な話である。ちづるは眉間に皺を寄せた。
つまりこの男は私が好きなのだろう、ちづるは薄々感づいてはいた。幾ら暴君でも、好きでもない女を度々担いで連れ出すことはないだろうし。連れ出される側はたまったもんじゃないが。
そして小平太はまだ自分が恋慕の情を抱いていることに気付いていない。これは不幸中の幸いと言うべきだった。自覚したら最後、これ以上の迷惑を被ることになる。御免こうむる。

「……とりあえずそろそろ帰りたいんだけど」

戻ったら中在家や忍たま六年の面々を牽制しておかなければ。見て見ぬ振りをするようになったことからも、彼らは小平太の世話を押し付けようとしている節がある。恐らく彼の想いにも気付いているのだろう。自覚させてなし崩しに、なんてことを考えているのだろうがそうはさせるか。
ちづるはぐっと拳を握る。可愛い顔をしていようが泣き顔を見せようが、ちづるはやはりくのたまである。
相手が暴君だろうがなんだろうが、必要とあらば今一度思い知らさせてやらねばならない。くのたまの恐ろしさというものを。





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