02

遠くで長次が憐れんでいることなど知る由もなく、内村ちづるは突如として現れた暴君に担がれ何処かに運ばれていた。これで何度目だろうか、抵抗する術など当然持ち合わせていない。
先程まで悲鳴を上げていたが、半端ない揺れに舌を噛んでからは黙りこくっている。加えて、幾ら悲鳴を上げたところで助けがくることがないとは分かっていた。くのたまも忍たまもこの暴君に関わりたがる者はいない。たまに助けてくれていた忍たま六年生も、最近は見ない振りをする始末だった。

「よし、ここらでいいか」
「ぎゃっ」

裏裏裏裏山か裏裏裏裏裏山か、裏が何個か分からないが山頂でちづるは下ろされた。丁寧さなんて欠片もなく、お尻から落ちる。変な声が出た。

「な、何なのいきなり。こんなとこまで連れてきて」
「長次が二人きりで話してみればいいと言ったからな!」
「意味分かんないけど中在家の所為なのは理解した」

恨みがましい目を学園があるだろう方向に向けたちづるに、小平太は眉を寄せた。彼女の頭を掴み、力づくで自身へ向かせる。ぐりんっ、ぐきっ。変な音がした。
無理矢理なその行動に文句を言うよりも早く、「うん、いいな」小平太が満足げに頷く。まったく意味が分からない。しかも頭は押さえられたままである。生命の危機か。涙目になるのは仕方ないことだろう。

「七松、いた、痛い……っ」
「うん、もう少し」
「わ、私に何の恨みが」
「恨みなんてないぞ。ちょっと泣いてほしいだけだ」

はたしてこの世に七松小平太を理解できる人間がいるのだろうか。
何故泣かされるのかは分からないが解放されるならと、ちづるは涙を抑えることをやめる。頬に一筋涙が伝うと、小平太は嬉しそうに目を輝かせた。

「おお、泣いたな!」
「な、泣いたわよ。だから放して……」
「可愛いな!」
「は?」

訳が分からない、といった様子のちづるに、小平太は邪気のない笑みを浮かべるだけだ。そんな顔もやっぱり可愛いなと思いながら。




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