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滝夜叉丸と下級生たちを見送ったちづるは、どうしたものかと考える。可愛い後輩は見つかった。矢羽音を飛ばして近くにいたくのたまに皆に知らせるようにも頼んだ。そうしたら、やることがなくなった。
何故一緒に帰らなかったのか。何やら必死の滝夜叉丸に圧されてつい残ってしまったけれど。同じく立ち尽くす小平太にちらりと視線を向ければ、彼もまた困惑を浮かべていた。
こいつも何かおかしい、とちづるは疑問に思う。いつもならば快活に受け答えをするだろうに、どうにも歯切れが悪かった。腹でも痛いのか。もしや好意を自覚をして、そして動揺した?まさかなと思いつつ、ちづるは「七松」彼の名を呼ぶ。びくりと大袈裟に肩が跳ねた。
これは、そういうことなのだろうか。ちづるはその様子にどう反応すべきか分からず、とりあえず会話をすることにした。

「あんたは行かなくてよかったの?」
「あ、ああ……滝夜叉丸がああ言っているなら大丈夫だろう。あいつも上級生だからな」
「まあ、そうね」

ちづるにとっては可愛い後輩には違いないのだが、上級生としての役割をこなすことは必要である。守りたい想いはあるが守ってばかりではいけないことをちづるは知っていた。自分が卒業しても彼や彼女が自身と後輩を守れるように、成長していくことを邪魔してはならない。手から離れていくのは寂しいことだ。けれど、重要なこと。
ちづるは頭を振る。滝夜叉丸ならば大丈夫であろう。彼らに追いつかないよう、ゆっくり帰ろうか。そう考え始めたちづるに、「あ、そうだ」小平太が声を発した。先程までの困惑はどこかに行ってしまったようだ。

「なあ、ちづる、手伝ってほしいことがあるんだが」
「何?」
「あのくのたまを見つけたとき、熊に襲われそうになっていてな。今日の晩飯にしたいから、運ぶの手伝ってくれ!」
「え、く、熊?!」

何それ聞いてない。襲われそうにって、かなり危険な状態じゃない。っていうか運ぶってもう倒した後なのか。いや熊倒すってそう簡単なことじゃないでしょ。絶句するちづるに、「早くしないと獣に食われてしまうな」小平太はにかりと笑った。




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