20 「ほら、落ち着け。怪我をしているのか?」 滝夜叉丸はくのたまをどうにか宥め、装束に覆われていない腕から見ていく。擦りむいた跡を見つけてこれだけかと問えば、くのたまは小さな声で膝もと答えた。 よく見れば袴に血が滲んでいる。一応了承を得てから袴をたくしあげ、見えた傷にほんの少し顔をしかめた。 「学園に連れ帰る前に、応急処置をした方がよさそうですね。水はあるとして……」 「薬がいるのか?」 「え、ええ、あるといいのですが」 小平太の言葉に滝夜叉丸は頷く。くのたまの体に傷が残っては大変であるし、残さない為には早めの処置が望ましい。 けれど体育委員会は傷薬など誰一人持ち歩いていないことを滝夜叉丸は知っていた。委員会活動中は小さな傷は絶えないし、その傷を逐一手当てしていたら間に合わない。滝夜叉丸も己の美貌に傷を残すつもりはないが、どうせ手当てできるのは活動終了後であるから長屋の自室に置きっぱなしであった。 「……なら、これを使え」 何処かに薬草は生えていないか、周囲を見回す滝夜叉丸に、小平太は少し悩む素振りを見せてから懐に手を突っ込んだ。そうして取り出した二枚貝に、滝夜叉丸は瞠目する。 まさかこの人が薬を持っているなんて!驚きのあまりぽかんと口を開けたままの滝夜叉丸に、小平太はからりと笑った。 「伊作の作った傷薬だからな、きっと効くぞ!」 「よ、よろしいのですか?」 「ああ。また作ってもらえばいいだけのことだからな」 では、と滝夜叉丸は貝を受け取り、竹筒の水と薬で簡単に手当てを施す。最後に手拭いを包帯がわりに巻いた頃には、くのたまはすっかりと泣き止んでいた。 「ありがとう、ございます」 辿々しくも礼を述べたくのたまに、小平太は「よかったな!」くしゃりと頭を撫でてやる。その勢いが強すぎるのを滝夜叉丸は慌てて指摘しどうにか止めさせ、はぁあと息を吐き出した。 ← → 目次 ×
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