01

七松小平太は可愛い女の子が好きだった。
勿論美人の女も好きだ。胸だって大きい方がいい。それでも小平太は、実習か何かで声を掛けるならまず可愛い子を選んでいた。
その理由を小平太はこう考える。そこいらのちょっとした美人なら、女装した仙蔵の方が美人じゃないか。
何より美人の女は気が強くて扱いにくいという偏見を小平太は持っていた。それはくのたまであったり女装した同輩であったりの所為であろうが、今までの経験上、小平太の行動に顔をしかめる者ばかりだったのだから仕方ないことかもしれない。勿論、彼女たちにそんな顔をさせた原因は普段通り細かいことを気にしない行動を取っていた小平太にあるのだが。
その分可愛い子はいい。少々無茶なことをしても、顔をしかめるより先に怯えを見せる。前者は醜いが後者はそれでも可愛い。泣き顔だってそそられる。可愛い子は大抵において可愛いままなのだ。

――小平太の長々とした話を、中在家長次はそう纏めた。小平太の話は流れがあっちへ行きこっちへ飛び、なかなか主張したいことが分からないものだったのだが、大体こんなところだろう。多少の違いはあるかもしれないが、そこは彼の言葉を借りようと思う。曰く、細かいことは気にするな。

「で、長次はどう思う?」

長次の長い沈黙に、小平太が催促を入れる。思考が終わったことを見計らったようなタイミングは、長い付き合いの賜物だ。
こくん、と長次は頷き、うっすらと唇に隙間を開ける。ぼそぼそと口の中に籠る声を、しかし小平太は難なく聞き取っていた。これもまた六年の時間が為せる業である。

「……」
「え、そうなのか?うーむ、考えたこともなかったな……」
「……」
「そうだな、確かめてくる!」

いけいけどんどーん!例の掛け声と共に小平太は走り出す。長次は黙ってそれを見送り、開け放たれたままの障子を閉めるために腰を上げた。
見上げた空は綺麗に晴れ渡っている。明日もこの天気が続きそうだから、本の虫干しをしてもいいかもしれない。長次の穏やかな心とは似合わない悲鳴が遠くから上がったが、長次は心の内ですまんと謝り聞かなかったことにした。合掌。


 

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