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「いけいけどんどーん!」

小平太は走っていた。久し振りの委員会活動である。二日間走り通しで失った体力は、一眠りしてすべて回復していた。後ろに続く後輩たちは嬉しいような嬉しくないような心地で足を動かし続ける。
一年二年は限界に近いな、一度振り返りそう判断すると、休憩を取る場所を考える。あの日以降、後輩に必要以上の無理はさせないことを小平太は心掛けていた。休憩だってきちんと取らせようと考えていた。ただし「向こうの山の頂上まで行ったら休憩だ!」その基準は未だ上手く掴めていないのだが。

昼まで寝た小平太は、午後の授業には参加した。それから委員会の時間までちづるを探していたが見つからず、傷薬は未だ小平太の懐にある。
委員会が終わったあとに会えるだろうか。小平太は考える。くのたま長屋に忍び込むのは苦手だが、頑張ってみようか。今日のうちに渡すのだという想いだけは通すつもりだった。

「ん?」

小平太は考え事をやめ立ち止まり、ぐるりと辺りを見回す。暫く後に追いついた後輩たちは、肩で息をしながら不思議そうに委員長を見ていた。

「どうか、しましたか?」
「今、何か聞こえた気がする」

問い掛けた滝夜叉丸はますます訝しげに首を傾げる。感覚の鋭い小平太においても『気がする』程度の音を、他の者が聞き取れるわけもない。

「様子を見てくる、お前たちは此処にいろ。滝夜叉丸、任せたぞ」

駆け出す小平太は滝夜叉丸にも追える速度ではなく、残された彼らは目をぱちくりとさせながら顔を見合わせた。え、どうしよう。



立ち並ぶ木々や起伏などものともせず、小平太は走る。その速度と移動時間から考えるに相当な距離を進み、目に小さな桃色とそれを捉えると「あれか」懐から苦無を握り構えた。
茂みを飛び越え間に割って入り、桃色を庇うように立つ。
それと対峙した小平太はにいと笑った。爛々と目を輝かせ、そして宣言する。

「今晩は熊鍋だな!」




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