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ちづるは焦っていた。木々を飛び移り、川を飛び越え、周囲に意識を向けながら走っていた。時折同じように走るくのたまを見つける。その度胸が締め付けられる思いをしていた。
本来ならば一年生の演習が終わり、また別の授業が行われている筈の時間である。それなのに彼女達は何をしているのか。
答えは捜索である。
何を?――一年生を。
ひとりの一年生が行方不明になったのは演習のとき。ひとつの班にひとりの上級生が隠れながら護衛をしていた。そして担当だった四年生が目を離した隙に、その一年生が姿を消したのだという。
ぎり、とちづるは唇を噛む。決してちづるのせいではない、しかしくのたま上級生にもなって未だ只の少女と代わりない一年生も見つけられない自分が情けなかった。何より後輩が怪我をしていないか、心細い思いをしていないかが心配だった。

「無事でいて……」

ちづるが後輩を大切にしようと思うようになったのは、自身が二年生を終えようとするときだった。それまでは自分はまだまだ庇護される存在で、一年生を守ろうだなんて思うことはできなかった。
それを変えたのは下級生合同演習の最中である。ちづるは行動を共にしていた一年生に不注意で怪我を負わせた。そしてそれを先生や上級生に叱られなかった。自分は先輩であったのに、下級生だから仕方ないと。
このことがちづるの心を責め立てた。あくまで不注意で、きちんと様子を見ていてやれば防げた怪我だったのだ。叱られていれば反省ができた。けれど誰からも責められないことは後悔ばかりを積もらせた。後悔を反省に変える方法が、ちづるには分からなかった。
幸い一年生の怪我は大したことがなかったけれど、やはりちづるの心が晴れることはなかった。『己のせいではない』そう逃げようとしたちづるの心を留めたのは、ちづるが懐いていた上級生だ。「後悔したなら、繰り返さなければいいのよ」そのたった一言がちづるの救いになった。
二度と後輩を傷つけない、傷つかせない。
そう誓うことで自分を律したちづるは、自分の後輩たちをひたすらに愛した。既に何度も悪戯を仕掛けた同級や一つ年下の忍たまにまで優しくすることはできなかったけれど、それでも後輩たちを守ろうと必死に強くなった。

その想いはちづるの中に愛情として強く根付き、誓いは当然今でも変わらない。
ちづるはひたすらに駆ける。早く見つけ出して、もう大丈夫だと笑ってやりたかった。




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