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「食満留三郎、七松小平太よ、任せたぞ」
「はいっ」



学園長の庵から離れたところで小平太は溜め息を吐いた。浮かない顔をする彼に、食満留三郎は「らしくないな」首を傾げる。
先程二人は学園長から山賊退治の忍務が与えられた。何度もこなしたことがあるそれは『思う存分暴れられる』という理由で小平太が喜んで向かう類いのものである。それなのに溜め息とは。

「遠いな」
「遠いって、今までとそう変わんねぇよ。一週間もあれば終わる忍務だ」
「一週間か……」

長いな。小平太の呟きに、留三郎は眉を寄せた。
一週間掛かる忍務なんてざらにある。やっぱり様子がおかしい。何か変なものでも食ったのか、伊作に診てもらった方がいいのでは。そこまで考えたところで、はっと気付いた。
そういえば伊作が大量の薬草を抱え嬉しそうな顔をしていた。不運委員長の彼が無事薬草を確保できたことを不思議に思い訊いてみると、小平太が採ってきたんだと答えた。
小平太はいい奴ではあるが、わざわざ保健委員会の為だけに動くとは思わない。ならば、何の為に?親友か、それとも。

「ちづるか」

ぴくり、肩が小さく跳ねたところを見ると、好きな女の為だという予想は当たったらしい。
何がどうしたのかは分からないがちづるに薬を贈ることになって、伊作に作ってもらおうと薬草を採ってきたのに、それを渡す前に忍務が入ってしまった。それで落ち込んでいる、と。

「ったく、阿呆か」

留三郎は盛大に息を吐き出した。呆れを隠す気はまったくなかった。
留三郎には小平太の想いに口を出すつもりはない。応援もしないし阻止する気もない、伊作と同じく傍観者の立場であった。
だが、彼は元来面倒見のいい性格である。元気のない友人をそのまま放置することは出来なかった。その理由が何であれ、慰めたり激励したりするのが常であり、今回もそれが転ずることはない。

「たった一週間だ、今までだって会えないことはあっただろ。忍務に集中してたらあっという間だ。薬草だって、採ってすぐに駄目になったりしねぇよ。万が一駄目になっててももう一回採ってくればいい話だ。いらん心配してねぇで、とっとと終わらせて早く帰ってこようぜ」

な?留三郎がにっと笑ってみせれば、「そうだな!」ぱっと表情を明るくして頷いた。何とも単純だった。
それじゃあ後で。出発は夜になる。準備の為に一度別れ、それぞれ委員会の面子のもとや長屋の自室へ向かう。一週間とはいえ、不在の間の為にやるべきことは沢山あった。

ちなみに。
留三郎がこのときの言葉を後悔するのは、少し先の話である。




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