可愛がりたい女の子

「食満先輩!」

委員会活動中、丁度作業が一段落着いたときだった。
委員長の名前を呼びながら、くのたまが走ってくる。いつも通り、五年の律子先輩だ。

「お疲れさまです!これ、差し入れに」
「いつも悪いな」
「わーい、お団子だぁ!」
「こら、しんべヱ、礼が先だろ」

律子先輩は用具委員でもないのに毎回お茶を、たまに茶菓子も持ってきてくれる。それは俺が一年の頃から続いていることだった。
聞いた話によると、昔の委員長に恋仲だったくのたまが差し入れをしていて、そのくのたまに憧れていた律子先輩が二人の卒業後に差し入れを始めたらしい。
とはいえ律子先輩は食満先輩と恋仲にあるわけじゃあない。片想いとかでもない。律子先輩の目的は、もっと別の、そう……

「「律子先輩、ありがとーございます!」」
「ありがとうございます……」
「いいのいいの!皆に喜んでもらえたなら、私も嬉しいから!」

――そう、下級生にあった。
ほわんと嬉しそうに緩んだ笑みを浮かべながら、一年たちの頭を順繰りに撫でていく。そのうち撫でるだけじゃ足りなくなって、全員纏めて抱き締めるのもいつものことだ。
この通り、律子先輩は後輩を可愛がるのが好き、というわけだった。

「作兵衛も、お疲れさま」
「は、はい。ありがとうございます!」

俺も慌てて頭を下げる。と、頭頂部に柔らかい手が触れた。一年たちと違って優しく撫でられ、まぁ、悪い気はしない。昔は子供扱いが嫌だったけれど、先輩はただ後輩を可愛がりたいだけだと知っているから。抱き締めようとするのは全力で抵抗するけど。

既に食べ始めている一年たちを見て、食満先輩に確認を取る。先輩は苦笑しながらも頷いたから、俺もお茶を戴くことにした。
律子先輩はいつの間にか平太を膝に乗せて頬擦りまでしている。いつも顔色の悪い平太の頬がうっすら赤らんでいた。可愛がるのは構わないけど、やり過ぎには注意してほしい。まぁ、先輩相手にそんなことは言えないけど。

「食満先輩も、食べてくださいね」
「ああ。ありがとう」

律子先輩の隣に座り、食満先輩も団子に手を伸ばす。一口食べて「美味い」感想を言うと、律子先輩は嬉しそうにはにかんだ。
お似合いなのになぁ、なんて思いながら俺はその様子を見ている。どちらも優しい、後輩想いの先輩だ。しんべヱも喜三太も平太も懐いているし、用具委員会は全員祝福するだろうに。

「……ん?」

ふいに律子先輩が腕を上げ、中途半端な位置で止めた。そのまま誤魔化すように平太の頭を撫でる。その様子には食満先輩も気付いた様子はなかったけれど……なんだ?
律子先輩はちらちらと食満先輩を横目で見ては時折我慢するように目を強く瞑る。熱の籠った視線で見ている位置は正確には頭、の……
もしかして、いやいや、まさか。

「本当、美味いな。何処で買ってきたんだ?」
「あ、峠の辺りに新しい店が出来て……」

ちらちら見てはうずうずしている律子先輩は、ああ、きっとそうなんだろう。

――食満先輩まで撫でたいんですか!

下級生だけではなかったなんて、俺は深く息を吐く。「どうしたの?」首を傾げる律子先輩に何でもないと誤魔化しながら、俺は何故気付いてしまったのかと後悔した。
これからどんな顔してりゃあいいんだ。

律子先輩が行動を起こしてしまわないか、食満先輩が律子先輩の視線に気付かないか、今後心配ではらはらしてろくに休めなくなってしまうだろうことに、このとき俺はもう勘づいていた。

ホント、誰か助けてくれ……


×
- ナノ -