肉食女子とオトン系男子

「ひどいんですよ立花先輩がまた嘘ついて私に魚肉ソーセージ食べさせたんですあんなのソーセージじゃないこの世に存在していい食べ物じゃないでも口に入れたものは食べなきゃ汚いし行儀悪いから泣きながら飲み込んだっていうのにあのひとは私を嘲笑ってたんですひどい立花先輩本当にひどいそれとこの間潮江先輩に出されたものは全部食えって怒られたんですでもそれ野菜炒めで望んで出されたものでもなくてお肉も一欠片も入ってなくてでも怖い顔するから食べるしかなくてやっぱり美味しくなくて泣きそうになりながら口に詰めてったらもっと食えって言ってとにかくあのふたりひどい本当にひどい」

そんな話を延々と吐き出しながら泣く律子に相槌を打ちながら、その頭を撫でる。話の内容は私にとっては下らないものではあるが、律子にとっては死活問題に等しいことだとも分かっていた。だから否定は一切しない。一切しないが、しかしその理由が分かっているだけに律子の言葉を全面的に肯定するわけにもいかない。
仙蔵はただ律子が気に入っているだけなのだ。何度も引っ掛かる上にその反応が面白いからと繰り返す。つまり子どもと同レベルということなのだが。そんなことをしているから怯えられるというのに、自分に懐かないことを不服に思っているのだからどうしようもない。文次郎は文次郎なりに律子の栄養状態を心配しているだけなのだが、やはり無理強いはよくないだろう。留三郎のようにせめて肉と混ぜるようにしてやれば、少なくとも泣かせることはないだろうに。それに加えて、怯えられていることにショックを受けているのを私は知っている。まったく仙蔵と文次郎には困ったものだ。
だが、あのふたりは少し注意したくらいでは態度を変えることなど不可能だろう。どうしたものか。

「……はぁ」
「……もういいのか?」
「はい、まあ、……ちょっとすっきりしました」

文句を吐き出すだけ吐き出して、ようやく泣き止んだ律子にティッシュペーパーを箱ごと渡す。一枚引き抜いて目の回りから水分を拭き取り、もう一枚を鼻に当てた。鼻をかむ間に、ゴミ箱を引き寄せておく。

「泣いたら、おなか空いちゃった」
「…………何か食べに行くか」
「学食のしょうが焼き食べたいです」

あまり甘やかすなと留三郎には言われたが、彼奴ほど律子を甘やかしている者もいないのだからこれくらいの願いは叶えても構わないだろう。そうしようと頷けばようやく笑顔を見せた律子に、顔を洗ってこいと洗面所を指す。真っ赤になっている目と鼻に、きっと驚くことだろう。
律子が顔を洗っている間に、私はふたりへメールを送ることにした。注意したくらいでは変わらなくとも、律子が泣いたことを添えればさすがに多少は動揺する筈だ。
暫く後に届いた弁解になっていない弁解メールを律子に見せれば、納得しないまでも多少気が楽になったように笑ったから、私はまた律子の頭を撫でた。やはり笑顔の方がいい。泣いたり元気のない表情をするよりも、笑顔でいる方が、きっと食事を楽しめる。


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