肉食女子と甘味男子

律子ちゃんは肉が好きでそれ以外のものは好きじゃない。それは甘いものも然りで、コンビニスイーツを選ぶ俺の横でつまらなそうにしていた。普通逆だよなぁと思いながら俺がシュークリームとエクレアで迷っていると、「まだー?」律子ちゃんが俺の脇腹をつつく。ゆっくり悩ませてもくれないのかと苦笑して結局シュークリームとエクレアの両方を取れば、パッと表情を明るくしてレジまで俺の腕を引っ張った。

「何にするかは決めてるの?」
「うん、唐揚げがいい」
「りょーかい」

律子ちゃんの要望をそのまま店員に告げれば、「肉まんもいいなぁ」なんて呟きが聞こえた。無視をする。ひとつという約束だったし、一番高い奴に視線が向いていたから変更は聞かない。唐揚げと変更ならともかくね。
唐揚げを取り出した店員が訊く前からスイーツと別々の袋に分けて渡してくれる。なんとなく俺に唐揚げ、律子ちゃんにシュークリームとエクレアを取りやすいようになっている気がして少し可笑しい。両方を俺が受け取り、お釣りを待つ間に唐揚げを律子ちゃんに渡せば、律子ちゃんは満面に笑みをこちらに向ける。

「ありがと、勘ちゃん」

その笑顔が見られるなら唐揚げのひとつやふたつ安いものかもしれない。まぁ、理由なく奢ることなんてないけど。
今回唐揚げを奢ってる理由は、急なバイトで出席できなくなった講義のノートを貸してもらった礼だ。テストは板書から出るらしいから書き写したノートは欠かせない。律子ちゃんが同じ授業を受けていてくれて本当に助かった。

「また何かあったらノートよろしくね」
「何か買ってくれるならね」

コンビニを出てから早速袋を開ける律子ちゃんに、行儀悪いよなんてあまり思ってないことを口にしてみる。すると律子ちゃんは「伊作くんみたい」なんて先輩の名前を出しながら笑った。笑っただけで気にせず食べ進めるとか先輩なんだか不憫じゃない?俺も気にしないことにしよう。

「今日は晩ごはんどうする?」
「他の皆空いてたっけ?三郎の作ったハンバーグ食べたいなぁ」
「いいね、連絡してみよっか。兵助も予定がなかったら杏仁豆腐作ってもらおう」
「甘いものばっかりでよく飽きないねぇ」
「律子ちゃんには言われたくないなー」

ふたりで歩きながら向かうのは律子ちゃんの家。別にどちらの家に行くとも決めてなかったけれど、このまま律子ちゃんの家でシュークリームとエクレアと晩ごはんを食べて帰ることになるんだろう。
勝手にあれがいいこれがいいと話し合う献立はいつも揉めることもなく決まっていく。律子ちゃんは肉が食べられるならそれでいいし、俺はデザートが食べられるならそれでいいからだ。俺たちが選んだ献立に文句を言うのは作る人(主に三郎)の役目。

そんなに肉ばかりを好む理由は分からないけど、好きなものを好きだと笑う律子ちゃんのことは好ましい。それと、俺が甘いものを沢山食べても変な顔をしないところも。甘いもの好きな俺と肉が好きな律子ちゃんは多分きっと対極にあるんだろうけど、お互いの嗜好で衝突することもないから俺たちはこれでいい。


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