食満夢でレッツイケマン化計画

食満夢。
夢主に恋をしたけど挨拶もろくに出来ずに物陰から見つめてるオトメンでへたれな食満を、内外ともにイケメンにしようぜ!な話。
主に伊作が頑張る。仙蔵が協力する(と書いて楽しむと読む)。小平太も応援する(と書いて邪魔すると読む)。文次郎と長次はツッコミか見守るか…何だろう。
下手すると夢主が空気。
夢主は後輩くのたま。団子屋の娘とかでもいいかもしれない。

↓始まり辺りの食満と伊作


--------------------


僕と同室の食満留三郎が、恋をしたらしい。

相手の子の名前は優。くノ一志望のくのたま五年生だ。愛嬌のある顔で、愛想もいい。生物委員会委員長代理に頼まれ、よく逃げた虫探しの手伝いをしている。というか何かを頼まれると大体のことは断らない。そのため教師や友人からの評判もよく、少なくない忍たまからも好意を寄せられているらしい。恋人や許嫁はいない。教科、実技ともに成績は悪くないが、掃除や洗濯、料理などといった家事全般が苦手。よって結婚するなら家事をやってくれる人と決めている。が、このご時世そんな男はいないだろうと諦めつつある。好物は豆腐の味噌汁。もし求婚するとしたら『私のために毎日味噌汁を作ってください』でいいか悩んでいる。

以上が、留三郎に頼まれ翌日中に調べたことの全てだった。

「って、名前くらい自分で聞きなよ!あの子結構おしゃべりで、質問しなくても色々教えてくれたよ!っていうか今日保健室に来たとき、手当てしてるといきなり『善法寺先輩は家事がお得意ですか』って言い出したよ?!」
「何っ、あ、あいつ怪我したのか?!大丈夫なのか、傷が残ったりは?!」
「大丈夫だよ!そして反応してほしいのはそこじゃないんだよ!」
「馬鹿っ、大事なことだろうが!お前それでも保健委員長か?!」
「そうだけどそうじゃなくって!」

傷は大したことなかった。あれならちゃんと薬を塗れば綺麗に治るだろう。彼女が心配なのは分かるけど、それより気にするべきところがあった筈だ。

「優さん、彼氏募集中なんだよ!家事が出来れば好感度高いんだよ!」
「おまっ、軽々しく名前呼んでんじゃねえよ!」
「ごめん!」

ああもう話が進まない!
ある意味真剣な留三郎には悪いけど、話を聞かない理解しない彼に僕の苛々が最高潮に達しようかというときだった。
がらりと障子が開き、何かが飛び込む。

「喧しい!」

ヒュッ、

ガンッ!

ゴンッ。



〜少々お待ちください〜



「落ち着いたか?」
「はい……」

場所は変わらず僕らの部屋。すっかり落ち着きを取り戻して正座をする留三郎の向かいに、仙蔵がふんぞり返っていた。手には生首フィギュア。さっき留三郎に投げつけたものだ。
強い衝撃に一瞬気を失って、すぐに目覚めた留三郎は「すまん伊作」すっかり正気に戻っていた。落ち着いてくれたならよかったし、そもそもそれどころでなかった僕は苛々もすっかり潮が引いて、「うん、いいんだ」短く終わらせた。

「助かったよ仙蔵」

仙蔵が止めてくれなかったら留三郎はますますヒートアップしていただろう。ただ留三郎にぶつかったフィギュアが跳ねて僕の頭をも襲撃したから礼は言いたくない。
仙蔵は軽く笑って「気にするな」と頭を振る。あれ、僕って大人げない?……今は気にしないでおこう。
「それで?」仙蔵の問い掛けは留三郎に向いていた。留三郎は気まずそうに目を逸らす。

「くのたまの優がどうした?」
「せ、仙蔵には関係ないだろ」
「そうだな。私には関係ないから留三郎が優に惚れているという噂でも流してこよう」
「ちょっと待て!」

留三郎は誤魔化そうとしたみたいだけど、無意味だった。そりゃああれだけ大声出してたら誰に聞かれてるか分からないよね。先程の会話の内容からも、きっと留三郎の恋心を読み取るのは容易い筈だ。
それから暫く誤魔化そうとしては道を潰され、渋々真実を話し出した留三郎に、仙蔵は相槌を打ちながら愉しそうに口角を上げる。これはまた何か企んでいるなと思ったけれど、自分の話にいっぱいいっぱいな留三郎は気付かない。
「……というわけだ」話が終わる。いいか、絶対他人に言うなよ!そう凄む留三郎の顔は真っ赤で、迫力なんてちっともなかった。
仙蔵はひとつ頷くと笑顔を浮かべた。にっこりと、邪気なんて感じさせない笑み。逆に不審すぎる、恐い。留三郎も同じ気持ちなのかひくりと頬を引き攣らせていた。

「よし分かった。私が協力してやろう」

その下に隠れた言葉は、いい暇潰しになりそうだ、ってとこだろうか。
けれど、と僕は考える。仙蔵が協力してくれるなら僕にとっても物凄くありがたい。
留三郎の恋は応援したいけど、彼女の話になると暴走しがちな留三郎を僕ひとりで相手をするなんて、きっと無理だろうし願い下げだ。けれど仙蔵が協力してくれたら実力行使で止めてくれる。それに仙蔵は楽しむだけ楽しむけど、それで留三郎の不利になることはしない筈だ。多分、きっと。
何か言いたげに口をぱくぱくさせる留三郎の肩をポンと叩いた。不安そうな目が僕を捉えて、僕は安心させるように頷いてみせる。

「やったね留三郎、仙蔵が味方なんて百人力だよ!」
「あっ、阿呆かぁぁあああ!」

留三郎の叫びなんて知らんぷり。愉快そうに笑みを深める仙蔵に、僕も笑顔を作った。

頑張れ留三郎!


×
- ナノ -