潮江と電車で育む恋の話

登校中に見かける男の子に恋をしてアドレスを手に入れたりちょっと話ができて喜んだり反対に傷ついたりしながら三年くらいかけてゆっくりと育む恋の話。
なんで自分のアドレスなんか欲しいのかと首を傾げながらも基本的には何でもオーケーしてくれる文次郎は周りの友人や後輩に迷惑をかけないことなら大体許してくれる。メールやSNSアプリでも返信は遅いけど一応してくれる。でも返信してない状態でも何通も送ってきたり返信催促するような奴には容赦なく受信拒否するのでほどほどに。そんな文次郎とゆっくり距離を縮めていく話。


書いてみた↓


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いつもと同じ電車、いつもと同じ時間、いつもと同じ場所に座る貴方に気付いたのは、貴方と同じ電車に乗るようになって半年ほど経った頃になります。真剣な目で参考書らしい本を読み続ける貴方のことがどうにも気になって、こっそりと目で追うようになって、きっとこれは恋なのだと気付いたときにはどうしようもないほど大きな想いになってしまっていました。

「あのっ」

あのとき声をかけることができたのは、きっと神様がくれたチャンスだったのでしょう。立ち上がったとき彼がプリントを落としたのも、私がそれに気付いたのも、誰より早くそれを拾えたのも。
振り返った彼の訝しげな目が私を映します。それにどきりとしながら、私はプリントを差し出して。落としましまよ、なんて噛んでしまって恥ずかしい想いをして。

「ああ、すみません。ありがとうございます」

それを笑うこともなく受け取った彼をただ見送ることもできなくて。

「あのっ」

電車を降りた彼へ、ドアが閉まる前にもう一度声をかけ、振り返るのをまたずに私は言いました。

「今度、アドレス教えてくだしゃい!」

また噛んだとか聞こえただろうかとか気持ち悪いと思われてないかとか思い悩んで真っ赤になって、周りの目が生暖かいものになっていると気付かなかった私は、幸せな頭をしてきたようです。



そして翌日、どうか彼がいますようにと願ったいつもの電車に、彼は変わらず座っていました。声をかけてもいいのかしらと思い悩む私に対し、彼は参考書から顔を上げると首を傾げて言いました。

「……俺の連絡先でいいのか?」

何度も頷く私の顔は、このときも真っ赤になっていたことでしょう。


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