滝夜叉丸のことが嫌いな許嫁

許嫁が憧れのお兄さんから大嫌いな滝夜叉丸に代わってしまってぷんぷんしてる話。
自分のことばかり話す滝夜叉丸が嫌いです。私の話なんて一切聞いていない滝夜叉丸が嫌いです。自分勝手な滝夜叉丸が、大嫌いです。そんな夢主と滝夜叉丸の話。



ちょっと書いてみた↓


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そもそも私は行儀見習いでこの学園に入学していた。私には許嫁がいて、その御方が十五になったら、つまり私が三年生を終えたら、嫁にいく筈だった。
そう、筈だったのだ。

「……何故私は四年生になっているんだろう」

じぃっと頭巾に目を落として考える。三年生以下とは違う、上級生の柄。去年までは、憧れていたけどけっして自分が身に付けることはないと思っていた。それが今、この手にある。
幾ら見ても変わる筈もないそれを、ようやく頭に被せる。手慣れた手つきで結んでしまえば、私は深く息を吐いた。

「むしゃくしゃするし、殴りに行こう」

誰にともなく呟いて、私はふらりと歩き出した。向かうは忍たまの敷地、同じく四年生になった平滝夜叉丸のもとだ。

私と滝夜叉丸は家が近く、歳も同じで、所謂幼なじみとして育った。家同士も付き合いが深くなって、それじゃあと婚約したのが、私と滝夜叉丸の兄上だ。
当時の私は八つだったと思う。幼い私にとって少し歳上のあの人は憧れのお兄さんで、ずっと一緒にいられるんだとよく分かっていないながらも凄く喜んだ。一人前になるまで待っててくれと言われて、私も立派な嫁になろうと忍術学園に行儀見習いとして入学してからも一途に想っていた。
それが崩れ去ったのが、三年の冬だった。

『婚約をし直してほしいそうなの』

『ええ、先方の都合なのだけれど』

『お相手がね、次男の、そう、滝夜叉丸くんに』

母様の言葉はろくに覚えていない。脳が記憶を拒否した。けれどさすがに無かったことには出来ない。色々話し合いをして、納得のいく説明と物品をつけられて、当然私が家の決定に逆らえるわけもなく、私の幸せな未来像は一気に壊されてしまった。そして残ったのは、真っ暗な未来。
あの人との婚約がなくなっただけでも悲しいのに、その代わりがよりにもよって滝夜叉丸だなんて!
私は昔から滝夜叉丸のことが苦手だった。口を開けば自慢ばかりする滝夜叉丸が面倒くさかった。それでもあの人の弟だからと、婚約してからはいつか自分の義弟になるのだからと、我慢していたのだ。
嫌いだと、喚いていればよかったのだろうか。そうしたら先方も、婚約は破棄にするにしろ滝夜叉丸を代わりにはしなかっただろう。そんなことをしていれば、そもそもの婚約もなかったかもしれないけれど。

校庭に行けば、奴はすぐに見つかった。穴を掘る綾部の横で何かをぐだぐだと喋り続けている。私に先に気付いたのは綾部の方で、それから振り返った滝夜叉丸は大層憎たらしい顔をしていた。

「優ではないか!こんなところまでどうしたというのだ?私に会いに来たのか?許嫁であるこの私に!」
「殴りにきた」
「おやまあ。いい拳だね、優」

右ストレートは綺麗に頬へと入った。なかなかいい手応えだ。
ぺちぺちとやる気のない音の拍手に私はほんの少しだけ気分がよくなり、私は一切振り返らずその場を後にしたのだった。


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