竹谷くんのお姉さんの話

設定捏造多め注意。

夢主が八左ヱ門の姉。忍術学園卒業生。
美人でサラスト。よく本当に姉弟か疑われる。
八左ヱ門の家系は代々忍者で親も兄姉も全員忍者。夢主も勿論くの一。特技は変装で目標としているのはシナ先生。
弟に会いに来た夢主と頭の上がらない八左ヱ門と他の学生たちの話。

学園を訪れたときの話↓


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八左ヱ門は名前が表すように八番目の子だった。
末子で、兄姉とは年齢が離れているため可愛がられて過ごした彼は、弟妹の存在に憧れていた。しかし今まで新たに子が産まれることはなく、だからだろうか、八左ヱ門は学園の後輩を目一杯に可愛がっていた。
頼られるのは嬉しいし、懐いてくれると何だってしてやりたい。いつも委員会で大変だろうけど、それでも一生懸命取り組む彼らを見ていると自分がしっかりしなければと網を握る手に力がこもる。彼らにとっていい先輩になることが、八左ヱ門の望みだった。



「先輩のご兄弟って、どんな方なんですか?」
「そうだなぁ、上の四人は俺が生まれた頃にはもう家にいなかったけど、帰ってきたときにはいつも土産を持ってきて、抱き上げてくるくる回してくれたなぁ」

こんな風にな!引っ付いていた孫次郎を抱き上げ、その場でぐるぐる回る。遠心力に身を委ねる孫次郎がきゃあきゃあと笑い声を上げた。

「では、残りの三人は?」
「ああ、五番目と六番目は年子でな。仲が良くて悪戯好きで、よくふたりで怒られてたなぁ。でも、よく町に連れてってうどんを食べさせてくれた」

拗ねた顔で問う一平の頭をぐりぐりと撫で、それから孫次郎と同じように抱き上げて振り回した。うわぁっ、しがみつく一平にはははと笑う。

「七番目は姉だ。贔屓目なしに別嬪でな、両親ですら本当に我が子かと疑ったほどだ。怒らすと恐いけど、普段は優しい人だぞ」
「竹谷先輩のお兄さんお姉さんは、素敵な人ばかりなんですね」
「そうだな、皆立派な人だ。俺もいつかああなりたいよ」
「竹谷先輩は僕らにとってご立派な先輩ですよ」
「嬉しいことを!」

虎若と三治郎をいっぺんに持ち上げる。ふたり合わさるとそれなりに重くは感じるが、余裕がないわけではない。「よーしそれじゃあ委員会始めるぞー」孫次郎に引っ付かれ、一平に裾を掴まれながら八左ヱ門が言えば、「はーい」四人の一年生は声を合わせていい返事をした。

「竹谷先輩!」

そこに走ってきたのは生物委員会残るひとりの孫兵だった。皆の餌をやってから参加するという話だったが、もう済んだのだろうか。それとも遊びすぎてしまったか、と八左ヱ門の脳内で反省会が開かれようとしたところで、孫兵の表情に焦りが見えた。
誰か脱走したのか。そう問う前に、孫兵は口を開く。

「女の人が、先輩に会いたいと、門の前にいるそうです!」
「……なんでそんな焦ってたんだ?」
「それは、その……とてもお綺麗な人だったので」
「……えーと、じゃあ、とりあえず行ってくる。先に掃除を始めといてくれるか?」

孫兵の言葉に、『それって俺の知り合いに美人がいるわけないって思われてるんだろうか』などと後ろ向きになりながらも、一年生のいい返事に背中を押されながら八左ヱ門は走り出した。孫兵はそんな奴じゃないだろ、と自分を叱りながら。



さて、孫兵は毒蛇や毒虫など、毒を孕む生物をこよなく愛する少年である。人間よりも彼らと戯れることを望み、彼女たちに愛を囁くことが常の孫兵が、その八左ヱ門の知り合いという女のことを『美人』と評した。
八左ヱ門の失敗は、そのことを疑問に思うこともなく門へと走ったことである。

「あれ、竹谷くん。どうしたの?」
「こ、小松田さん、あの、俺を尋ねて来た人がいると」
「ああ、うん。サイン貰ってるよ。綺麗な人だねぇ」
「それで、その人は何処に?」
「会ってないの?生物小屋まで会いに行くって言ってたけどなぁ」

はて、そのような人物にはすれ違っていない。八左ヱ門は首を傾げる。そもそも忍術学園の中を迷わず歩けるような人間は知り合いにも限られているのだが――

(……あれ?)

浮かんだのはひとつの考え。たらりと冷や汗が頬を伝う。
そんなまさかと思いながら事務員に入門表を確かめさせてもらえば、八左ヱ門は顔を真っ青にさせて踵を返し駆け出した。あれは孫兵じゃなかったと悟ったのも、この瞬間。



「おっ、戻ってきたな」

生物小屋に戻った八左ヱ門を迎えたのは、四人の一年生と一平を抱き上げる群青の忍装束。一年生たちが目を丸くし、八左ヱ門とそれに視線を行き来させる。
快活に笑う顔とあちこちに跳ねる硬そうな髪のそれは、八左ヱ門に瓜二つだった。

「あれっ、竹谷先輩?」
「じゃあこっちは鉢屋先輩?」
「違う違う。俺は竹谷だよ」
「えー?」

「何してんだよ姉ちゃん!」

ふたりを見比べる一年生が困惑を露にして、しかし必要がないと本能が悟ったのだろうか、警戒の欠片も見られない。唯一慌てっぱなしだった一平がゆっくりと降ろされる。地面に着くか否かのところで、八左ヱ門は声を上げた。
姉ちゃん?じゃあ、竹谷先輩のお姉さん?一年生が顔を見合わせ疑問と疑問符を飛ばしあう。四人同時に八左ヱ門の顔をしたそれを見上げると、にかりと笑うそれはべりりと面を剥がし鬘を外した。
その下に現れたのは美貌の女。にっこりと微笑む女は、八左ヱ門を見据えて言った。

「いつからお前は姉ちゃんにそんな口を利けるようになったの?」
「ごめんなさい!」



ようやくペットの世話を終え合流した孫兵が、平伏する八左ヱ門と見知らぬ女とその女に挨拶をする一年生たちを目の当たりにして首を傾げたのは、ほんの少し後の話である。


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