Bonus Trackの幼女ver.

転生。覚えてたり覚えてなかったりするのはBonus Trackと一緒。
ただし夢主のみ幼女。なんで自分だけと鬱々してたりする。長次とご近所さんでよく世話になっている。他キャラとの接点がなかなか出来ない。
甘やかされたりするのもいいけど一部キャラの風当たりが一層強くなってたりしそう。

↓というわけで三郎の風当たりが強い話



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随分嫌な目をする子どもだった。

雷蔵に請われ、図書室の整理に付き合うことになったある休日。雷蔵とともに図書室に入ると、そこには無愛想な図書委員長とミスマッチすぎる小さな影があった。子どもだ。小学校低学年、それどころか幼稚園児かもしれない。なんで中学校の図書室にそんなものがいるのかと、私と雷蔵は入室の挨拶も忘れて固まった。
そんな私たちを、中在家先輩はちらりと一瞥。雷蔵がはっとして「し、失礼します」声を発した。

「……」
「……」

他の図書委員も気になっているようだが、なかなか訊けなかったのだろう。ちらちらと視線が雷蔵に集まる。人のいい雷蔵は困った風に微笑みながらも口を開いた。

「あの、中在家先輩、そちらは……」

おそるおそるといった感じに雷蔵が問うと、中在家先輩がぼそぼそと何かを言う。図書委員でない私には聞こえないから雷蔵に翻訳してもらったところ、中在家先輩の家で預かることになっていた子どもで、手違いで昼間は中在家先輩が面倒を見なくてはいけなくなったらしい。
以下、中在家先輩の台詞は図書委員の翻訳とする。

「それで、連れてきたんですか」
「学校側の許可は取った……お前たちにも迷惑を掛けるが」
「いえ、大丈夫ですよ」

他の奴は知らないが、雷蔵も私も子どもは嫌いじゃない。仕事の邪魔さえしなければ子どものひとりやふたり構いやしない。
首を振った雷蔵は、子どもと視線を合わせるためにしゃがみこむ。

「ええと、お名前は?」
「舞阪優です。皆さんにご迷惑おかけすることになって、本当に申し訳ありません」
「……いや、うん、気にしないで」

なんだこの子どもは。
子どもの口からすらすらと流れた言葉は、およそ子どもから聞こえる類のものではなかった。雷蔵も若干引き気味だ。
中在家先輩が息を吐く。「舞阪」たしなめるように子どもの名を呼べば、子どもはぱちりと瞬きして僅かに頷いた。
そしてにっこりと笑う。子どもらしい、不自然さの欠片もない幼い笑顔で。

「おにいちゃんの、おなまえは?」
「僕は不破雷蔵。雷蔵でいいよ」
「らいぞーおにいちゃん、よろしくね」

なんだこれは。
舌足らずの言葉は先程の名残もないもので、あれは気のせいだったのではと思わせる。けれど私には違和感しか抱けない。何が理由か分からないが、その笑みも言葉も信じることは出来そうにない。
きょとんとした目が私を映す。
ただただ気味が悪かった。

「……らいぞーおにいちゃんがふたりいる」
「ああ、こっちは」
「鉢屋だ」

雷蔵の言葉を遮り、姓だけを名乗る。この子どもに名前を呼ばれたくはない。

「はちや、おにいちゃん」
「お兄ちゃんなどと呼ぶな、馴れ馴れしい」
「ちょっと、三郎」

雷蔵の咎める視線も言葉も今だけは気にすることは出来ない。
子どもは気にした素振りもなく笑ってみせるのだ。無邪気と称されるだろう笑み。子どもなら子どもらしく、悪意を受けて泣けばいいのに。そうすれば私もきっと謝って宥めて抱き上げてやる手を伸ばせただろう。それをしないこの子どもはただただ気味が悪い。何がだ?笑みが、言葉が、――目が。
真っ黒の瞳の奥、冷たい色と暖かい色が混ざりあったような、筆舌に尽くしがたい感情が沈んでいるようだ。その瞳に映される度それにどろりと取り囲まれる気がして、ああ、気味が悪い!

「よろしくね、はちやさん」

そんな目で、私を見るな。


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