転生次屋が人を探す話

転生。前世の記憶がある次屋と転生でない夢主が出会ってどうこうする話。
他キャラの記憶あるなしはまちまち。
夢主はキャラと兄弟設定。
次屋夢かどうかは分からない。
↓書いてみた出会い部分。


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放課後の教室、忘れ物を取りに来たら、隣のクラスの次屋くんが私の席で泣いていた。
どうしよう気付かないふりするべき?なんて焦っていたら物音を立てるなんてベタなことをしちゃって、次屋くんがこちらに気付く。気まずい。目があって暫くすると、「悪い」次屋くんが呟いた。

「……変なとこ見せたな」
「う、ううん。えっと、大丈夫?どこか痛いの?」
「いや、何でもないんだ。ちょっと、感傷に浸ってただけで」
「そ、そっか。大丈夫ならいいんだけど、その……私でよければ話くらい聞くよ」
「え?」
「あ」

つい友達を慰めるときのようにしてしまった。さっきも言ったが次屋くんは隣のクラス、私と接点なんかない。次屋くんは格好よくて人気者だから名前を知ってるけど、次屋くんは私なんか知らないだろう。初対面の相手からそんなこと言われても、困るはずだ。

「ごっ、ごめん、何言ってんだろうね私!」
「……いいの?」
「え?」
「時間あるなら、ちょっとだけ、話、聞いて」

言い出したのは私だし、泣いてる人にそう言われて首を横に振れるわけがなかった。





「今から言うことは、信じなくてもいい。嘘だと思うだろうし、思ってくれて構わない。でも、否定だけはしないでくれ」

「俺、前世の記憶があるんだ」

「多分、室町時代くらいかな。俺、忍者だったんだ。城に仕えたり、これでも結構優秀だったんだよ」

「まぁそこは置いといて……子どもの頃は、忍者になる為の学校に行ってた」

「忍術学園。十歳から十五歳の六学年あって、委員会もあって、いろんな先輩後輩がいて……」

「友達が、いて」

「大事なダチがいたんだ。いつも俺を引っ張っていってくれて、馬鹿野郎って怒って、仕方ねぇなって笑ってくれた。いつでもまっすぐ前を向いてて、一緒に怒られて、一緒にいろんなとこを歩いた」

「あいつらといれば、怖いことも辛いこともなかった」

「あいつらが、好きだった」

「……でも、卒業して別れて、互いの就職先の城とか知らないままで。ほら、もし戦になって、敵にいるって分かってたら戦いにくいだろ?」

「忍者になったことは後悔してなかった。忍者として生きて……死んで。最期にあいつらと酒でも飲みたかったなって、思ったりして、結構幸せな心境で死んだんだ」

「そしたら、また生まれて、あの頃よりずっと豊かで平和だって知って、だから、今度は、ずっとあいつらと友達でいようって、友達でいたいって……」

「それなのに、」

「……いないんだ。あいつらがいない。どれだけ探してもまだ見つからない」

「もしかしたら覚えてないかも、って不安はあったけど、次第にあいつらは生まれてきてないんじゃないかって、そっちのが不安になって」

「もう少し、頑張るつもりだったんだけど。でも、ちょっと疲れたから、休憩しようかなって思って」



何度も希望を見つけては裏切られたんだろう。辛そうに笑う次屋くんに、胸がギュッと締め付けられるような気がした。
前世なんて信じてないし、信じられないけれど、次屋くんが嘘を言っているようには思えない。懐かしむような顔も、悲しい色に染まる目も、演技には見えなかった。
きっと、本当のことなんだろう。少なくとも私が否定していいことじゃない。

「なぁ、頼みがあるんだ」
「なに?」
「手、握って。思いきり力を込めて」
「う、うん、分かった」

差し出された手に触れる。大きな手。男の子の手を握るとか何年振りだろう。湧き出てくる気恥ずかしさは気にしないようにして、握る手に力を込めた。
力一杯握っているんだけど、次屋くんは痛そうにする素振りもない。渾身の力を振り絞ったあと、もう駄目だと手を離せば「ははっ」次屋くんが笑った。

「非力だなー」
「うっ……」
「でも、サンキュ」
「……これくらい、いいよ」

こんなことで元気が出るなら、ちょっと情けなくても恥ずかしくてもいいや。泣いてるところを見ちゃったんだからお互い様だ。



「あー、もうこんな時間か」

次屋くんの言葉に、私は窓の外に目を向ける。さっきまで水色だった筈の空はオレンジ色と暗い青が混ざりあっていた。
もうすぐ完全下校の放送が流れることだろう。そろそろ帰らなきゃね、私が呟けば、次屋くんが頷いた。

「そういえば、どうして次屋くんは私の席に居たの?」
「あー……何か落ちてるなーと思って」
「あっ、私の手帳!」

次屋くんが手にしているのは紛れもなく私の手帳だ。
そうだ、私、これを取りに来たんだった。鞄にないことに気付いて、落としたとしたら教室だと思って取りに来たのに、すっかり忘れてしまっていた。

「な、中見ちゃった?」
「いや。……見られて恥ずかしいもんでも入ってんの?」
「えっ、いやっ、そんなことないですよ?」
「嘘下手だな。隠されると見たくなるのが人情」
「だ、だめー!」

ぱらぱらとページを捲る次屋くんに、私は慌てて手を伸ばした。書き込んだ予定とか、メモとか、そんなのはどうでもいい。
私が見られて困るのは、手帳に挟んでいる写真だ。それを挟んでいるのを知られるのが恥ずかしいのであって、一緒に写ってる相手が恥ずかしいわけじゃない、断じて。

「あ、」

取り返すより先に、次屋くんが声を上げた。その手には写真、が。
ぎゃー!と声を上げた私に、けれど次屋くんは写真から目を離すことはなかった。あまりに真剣な様子に取り返すのも憚られて、私に出来ることは「次屋くん……?」名前を呼ぶことだけだ。

「一緒に写ってるの、彼氏?」
「……弟」
「弟?そっか、弟か……」

引かれた、だろうか。やっぱり弟とのツーショット写真を手帳に挟んで大事にしてるなんて変なのか。だって大好きなんだもん私の弟は世界一なんだもん。でも引かれると、ちょっと、やだな。
「……ブラコンって思った?」恐る恐る訊くと、けれど次屋くんは首を振った。

「いいや。姉弟仲良しっていいじゃん」
「えっ。そ、そうかな……」
「しっかりしてそう。中学生?」
「う、うん。今年中学生になったの」
「そっか……じゃあ高校生になるときは俺達と入れ違いか」
「そう。一緒に通えたのは小学校だけだったなー」
「残念だな。……っと、話は帰りながらしよう。送るから」
「え、いいよ、大丈夫だよ」
「大丈夫大丈夫、俺、今世では方向音痴じゃなくなったから」
「前世では方向音痴だったの?」
「よく怒られてたかなー。でも今は自分で家に帰れるから」
「その言い方じゃあんまり安心できないよ。むしろ私が送るよ……」
「本当に大丈夫なのに。じゃ、途中まで一緒に帰ろう」
「……それなら、まぁ」

次屋くんが実際方向音痴じゃないのかは知らないけど、普通に家に帰るくらい大丈夫だろう。
鞄を持って立ち上がる次屋くんに倣う。はじめて話したのに一緒に帰るなんて、なんか不思議だ。
ブラコンって言われなかったのも嬉しくて、私は胸がどきどきするのを感じてた。





隣のクラスに入ったのは、確かに手帳が落ちていたからだ。誰のだろうかと拾い上げたのはいいけど中を見るのも憚られて。どうしようかなーと思っているうちに、気になっていた名字がいることを思い出した。けれど今回も違うんだろうと、確認してしまうのが怖くて、すると何故だか泣けてきて。そこにその本人が来たのは、まあ、偶然だ。
もういいやと吐き出したくて話してしまって、明日から俺白い目で見られたりすんじゃないかなーと思っても後の祭りだと開き直り、それでも彼女は馬鹿にすることもなく俺の手を握ってくれた。
その手は小さかったし非力だったけど、あいつと同じくらいの体温で、もうちょっとだけ頑張るか、って思えて。
それから適当に話をして、知り合いになったなら大丈夫だろうとふざけて手帳を捲って、出てきたのは信じられない一枚の写真。
そんな馬鹿なと思いながら訊いてみれば、考えてもみなかった事実がそこにあった。そりゃあ見つからないわけだ。
……でも。

「ありがとな、富松」
「聞いてただけだよ。……あれ、私、名乗ったっけ?」
「富松だって俺の名字知ってただろ。それより、ほら、弟の話は?」
「あ、うん。えっとね、うちの作ちゃん、あっ、作兵衛っていうんだけどね――」

やっと、見つけた。





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前世が方向音痴なのは自覚したけど今世も方向音痴なのは無自覚。
この後は三之助が夢主を通して作兵衛と仲良くなろうと頑張る。作兵衛は多分記憶ないけど何この迷子ほっとけねぇってなる、といいな。
年齢操作入るのでどうせなら別学年も出したい。


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