少女Αの報告

作業に戻る。今度はどれだけ集中しようとしても頭から食満先輩のことが離れることはなかった。私が借りた本のあった空間にさえどきどきする私はもう頭かどこかのネジが足りないんじゃないかと思う。もしくはどこかの回路がショートしてるに違いない。おかげで何回チェックし直したことか。
それにしても、今日一日で一生分のどきどきを味わっている気がする。寿命も幾らか縮んだに違いない。
補修中だった棚以外を終えれば、補修を終えた食満先輩に手伝ってもらって本を棚へ戻す。少し離れた場所に敷かれたシートの上に、その棚から降ろした本が積み重なっていた。本が痛まないように低く置かれたそれは中在家委員長の所業だろう。その委員長がこの棚を私に任せたのだから、後処理は私の仕事だ。責任を持ってやり遂げなければならない。

「飛鳥井はよく本を読むのか?」
「は、はい、いや、そんな、それなりに」
「ははっ、どっちだよ。先月は何冊借りた?」
「ええと、十?……十二?くらい?かと」
「疑問符多いな」

そして作業の合間にも食満先輩は話しかけてくれる。気を使ってくれているのだろう、けれど、ちゃんと会話ができているか心配だった。人と話すのは苦手ではないけれど、今日ばかりはまともな受け答えができているか怪しいものである。
普段の放課後なら中在家委員長に注意されるけれど、今日は見逃してくれるらしい。カウンターの方からも不破くんや他の委員の話し声が聞こえてきていた。私は注意されたいようなされたくないような、不思議な気分だった。
きっちりと棚に収まるように、何冊か他の段と入れ替えながら調整を図る。ぐっと押し込めば、終了だ。あとはチェックするだけ。

「これで最後なのか?」
「はい。ええと……はい。チェックも後は貸出カードと照らし合わすだけです」
「ん、お疲れ」
「いえ、食満先輩こそ。ありがとうございました」

このまま問題がなければ図書整理は無事終了となる。補修の件と、本を並べるのを手伝ってくれたことと、チェックが終わるまで待っていてくれたことと、それから話をしてくれたことへの感謝に頭を下げて礼を述べる。特に最後はいい思い出になるだろう。
共にカウンターへ向かって、私は不破くんたちの方へ、食満先輩は中在家委員長に報告へ行った。私は当然というか最後だったようで、急いで他の皆に混じって作業に取り掛かる。
それが終わる頃には食満先輩の姿は既になくて、ああ見送りしたかったな、なんてちょっとばかり残念に思った。



ひとつ深呼吸をしてから、がらっと教室のドアを開けた。中には私の友人ひとりだけ。待たせたことの詫びよりも、待っていてくれたことの礼よりも先に、私は言った。

「友よ、私は恋をしました」

友人はぽかんと口を開けたまま動きを止めて。けれどすぐに咳払いなんてしてみせた。彼女は突然の出来事にもすぐ反応できるようだ。羨ましい。

「委員会おつかれさま。そして私は結構動揺しています。予定ではマックに連れ込み散々説き伏せてからのその言葉だったのに。一体何があったというのか、根掘り葉掘り聞かせていただきたいのでマックに行こう」
「もしかしてマックに行きたいだけなんじゃ?」

私も話したいことが沢山、でもないけど、とにかくある。普段付き合っている分、今日は付き合ってもらおう。恥ずかしいけれど、聞かされる側は迷惑かもしれないけれど。
誰かに話したくて仕方がないのだ、この恋心を。




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