友人Υの御礼

「あや、あーん」
「あーん?」

素直に応じるあやの口に、クッキーを一枚放り込む。それを咀嚼し飲み下すと、あやは「美味しい」と笑った。この反応なら特に問題はないだろうと私は携帯電話を取り出す。彼にメールをしたためながら、まだあるクッキーをあやに勧めた。

「あんたの分だから、好きに食べていいわよ」
「やった。でもどうしたの、これ」
「作ったの」
「誰かにあげるの?」
「そんなとこ」

土曜日に付き合ってもらったお礼に、善法寺先輩へ作ったものだ。こんなものでお礼になるかは分からないけれど、人のいいあの人なら嫌そうな顔を見せることはないだろう。自己満足にはちょうどいい。ついでに予備も用意したから多少の事故は問題にならない筈だ。余ったら委員会の後輩に配るつもりだから、予備が必要にならないことを祈るけれど。
すぐに返ってきたメールに、私は安堵の息を吐いてクッキーを摘まんだ。まだ本題に入っていないのだ、それを聞かせてもらおう。

「それで、デートはどうだったの?」
「あ……その、ね」

途端にしどろもどろになるあやは全てを語ろうとしなかった。が、その話と様子を見るにどうやら期待以上の成果だったようだ。善法寺先輩に協力していただいた甲斐があった。分かりやすい顔をしているあやの口に、私はもう一枚クッキーを押し込む。

「あんたも今度何か作って食満先輩にプレゼントしたら?」
「えっ?!」

自分で訊いておきながらなんだけど、これだけ惚気話を聞くことになるのなら砂糖はもう少し控えめにしてもよかったかもしれない。


 

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