友人Ζの焦燥

僕の親友、食満留三郎に好きな子ができたことは、僕と留三郎だけの秘密だった。
理由?そんなのは簡単だ。皆にバレたら絶対にからかわれるから。面白半分で首を突っ込まれて、ふたりの関係をぐちゃぐちゃにされたらたまったもんじゃない。留三郎は真剣に、本当にあの子が好きなんだから。
だから、ふたりが付き合うようになるまでは、気付かれないようにと考えていた……ん、だけど。

「最近、留三郎は忙しいようだな」

愉しそうな仙蔵の声に、僕は失敗を悟った。

場所は屋上。僕ら六人がいつも集まってご飯を食べる場所だ。けれど、今この場所に留三郎はいない。委員会で集まりがあるらしくて、時間の余裕もないだろうから今日は来ないと言っていた。
このタイミングで仙蔵が切り出したということは、まだ充分に情報は得られていないということだろう。
仙蔵の性格から考えて、中途半端な情報で留三郎を詰ろうとは思わない筈だ。充分な情報を得たところで、完璧に計画を立てた上で留三郎に突きつける筈。望む以上の動揺を誘えるように。
その情報を仕入れるためにはどうする?地道に裏付けを取るのが確実だけど、仙蔵がそうするとは思わない。それよりも事情に詳しい奴を問い詰めるのが手っ取り早いし、仙蔵にはそれが可能だった。
詳しい奴とは、留三郎と常に一緒にいるような人間。
つまり、ターゲットは僕だ。
仙蔵は、僕が仙蔵の思惑に気付いていることに気付いているだろう。その上で、僕が口を滑らせるよう誘導するだけの自信がある。

「――そうだねえ」

確かに、仙蔵は強敵だ。けれど、今回を乗り切ったら。此処を上手く切り抜けたら、次への対策が取れる。考えられる展開に先手を打つことが出来る筈だ。

「確かに、委員会の召集が頻繁になってるよね」

僕は何でもない表情を繕いながら、見当外れだろう返しをする。この展開は予想できたことだから、動揺を隠すことは容易かった。

「最近備品がよく壊れてるからかなぁ。ね、小平太」
「んー?ふぁひふぁふぃふぉふぇふぁふふぉーは」
「……小平太、食べるか話すかにしろ……」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「食ってんじゃねえよ!」
「む。……ぷはっ、食べろと言ったり食べるなと言ったり、難しいな文次郎は!」
「長次は口の中にものを入れたまま喋るなっつったんだ!」
「そうなのか?」
「……行儀が悪い」
「そうか、気を付ける!それで、えーと、何の話だっけ?」
「留三郎が最近委員会で忙しいよね、って話」
「そうだな、委員会も忙しい」

喋り続ける僕らを、仙蔵の一言と笑顔が止める。その笑顔は何かを企むときや面白がるときに浮かべるもので、なるべく関わりたくないものだ。視界の端で文次郎が顔をしかめた。助けは期待できそうにない。

「だが伊作、それよりも重要なことがあっただろう?」
「え?えーと、ああ、もうすぐテストだもんね」
「そうだな、テストもあるな。だが、それよりも重要だ」

さすがに簡単には誤魔化されてくれないか。嘘くさいまでににこやかな皮の下で、一体どんなことを考えているのか。
暫く沈黙が続き、僕が素直に口を割るつもりがないと判断したのだろう仙蔵は携帯電話を取り出した。幾らかの操作を行って、それを僕に突きつける。

「留三郎がとある女子生徒と親しくしているようだが、お前は知らないというつもりか?」

小平太が楽しそうな声を上げ、文次郎が形の違う左右の目を少しばかり見開く。
その液晶には確かに、留三郎と肩を並べて歩く飛鳥井さんの姿があった。


 

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