少女Αの自覚

勿論挙動不審な私に友人が気付かないわけがなく、5限目の終わった10分休憩の今、私は昼休憩の出来事を話すことになってしまった。
全てを話し終えた私に友人はひとつ大きく頷いて、宣告する。

「それは恋よ」

な、なんだってー!
衝撃が走る。これが漫画だったら背景に雷と効果音が描かれているに違いない。そんな思考は現実逃避であり、つまり私は友人の言葉を受け入れられないでいた。

「認めなさい。あんたは用具委員会委員長の食満先輩に一目惚れをしたのよ」
「そ、そんなまさか!まずはじめて見たわけじゃないし!っていうかあの人そんな名前なんだ!」
「細かいことは気にしない。名前も知らなかったことの方が驚きだわ」

有名よ、三年生の委員長ズ。そう言って友人は説明してくれる。彼女曰く、会計委員長の潮江先輩、風紀委員長の立花先輩、体育委員長の七松先輩、図書委員長の中在家先輩、保健委員長の善法寺先輩、そして用具委員長の食満先輩の六人は、三年生でも有名なイケメン集団らしい。残りの生物委員会と美化委員会の委員長はどうなんだろうかと気になったが、何も教えてくれないところをみると気にしない方がいいんだろう。

「しかし色恋沙汰には全く興味なかったあんたから恋の話を聞くことになるなんてね」
「待った。私、別にそんなんじゃないってば」
「自分の想いを別のものだと誤魔化して長々と思い悩むような展開にはもう飽きたの。今日認めるまで帰さないからね」
「帰さないって、放課後は委員会だからね」
「待ってる。お弁当箱を人質に」
「やめてください」

友人のことだから無視して帰ったら洗ってくれることなんてない筈だ。夏休みが終わったからと言ってもまだ暑いこの季節、放置はやばいだろうし明日のお弁当にも困る。
私は否定を諦め、放課後の委員会が終わる頃には恋であると形だけでも認められるよう覚悟を決めることにした。今はまだ、整理がついてない。さっきの授業も散々だった。
それにしても、そうか、食満先輩、か。いい人だったな、笑顔も、素敵だったんじゃないかと、うん、思う気がする。

「また赤くなってる」
「はっ、しまった」



6限目も授業に身が入るわけもなく、私は友人に鞄を預けて、偶然通りかかった隣のクラスの不破くんと共に図書室へ向かった。今日は月に一回行う図書室を閉めての図書整理の日だから、問題がなければ当番のときより早く終われる。
図書室の中に入れば、数人の図書委員が既に仕事を始めていた。私も中在家委員長の指示を受けて割り当てられた棚へ向かう。別の棚のものが混ざっていないかなどのチェックだ。不破くんは貸出カードの整理だから、カウンターの奥へ入っていった。

「ええと、こっちの棚から……?!」

こん、こんと小さな音。何かを叩くような、軽い音。嫌な予感がした。心臓がまたうるさくなる。そういえばこっちは昼に本を借りた本棚があって、その並びには補修が必要な棚があって、それを補修するのは用具委員、で。

「お。昼にも会ったな」

――心臓がやばいです、友人よ。

再び不整脈を起こさんばかりに高鳴りだした胸に思う。ああこれは認めるしかないんだろうな。私は恋をしたのだ。あの瞬間、食満先輩に。




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