少女Αの約束

夢のようだけれど、夢じゃない。ひりひりと痛む頬を押さえ、けれど頬が緩むのを止められなかった。
食満先輩とのことを報告したときにはよかったじゃないと祝ってくれたけれど、その一方で呆れてもいるんだろう、私の頬をつねっていた友人は「馬鹿ね」そう呟いた。馬鹿、浮かれている私は確かにその通りだと思う。

「でも、よかったじゃない、あや」
「……うん」

それでも、仕方ない奴だと思いながら見放さないでいてくれる友人には、感謝してもしたりない。頷いた私に優しく笑う彼女は、時計を見るとそっと私の背中を叩いた。

「ほら、そろそろ行かないと。待ち合わせしてるんでしょ?」
「あ、うん」
「今度の休みにスイーツバイキング、忘れんじゃないわよ」
「勿論。ありがとうね」

彼女がしてくれたことに比べれば、スイーツバイキングなんて安いものだ。最後どころかこれからも沢山迷惑を掛けそうだけれど、いつか私も彼女の力になれるときが来たら、全力で協力しようと心の中で誓った。



約束は昇降口で。食満先輩は文化祭の話し合いがあるから少し遅れるかもしれないと言っていたけれど、それでも此処で待っていたかった。図書室や教室で連絡を待つよりも先輩を待っていたくて、なんて理由は言える筈もなく、曖昧に誤魔化してしまったけれど。
「飛鳥井、」少し息を切らしたその声に顔を上げる。走ってきたんだろうか、急がなくてもよかったのに。そう思ってはいても、当然嬉しくもある。もし先輩も私に会いたいと思ってくれていたなら、なんて考えてしまう私は本当に浮かれているんだろう。

「遅れてすまん、待たせたな」
「いえ、全然です」

ちらりと時計を見れば、一応告げられていた時間よりも十数分ほど過ぎていた。遅れるかもとは聞いていたし然程待たされたわけでもない。それに、本当にあっという間だった。そう感じたのはきっと先輩を待っていたからだ。そう言えば食満先輩は困った顔をするだろうか、まだ恥ずかしくて、言えそうにはないけれど。

「じゃあ、帰るか」
「はい」

それでもいつか、そんな気持ちも伝えられるようになるのならいいなと、思う。

「……なんか、すげえ、緊張する」
「……私も、です」
「だよな」
「はい」

これから先、季節が変わっても先輩が卒業してしまっても、こうやって並んで歩ければいいなと、そう思う。



end


 

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