少女Αの動揺

「……え?」

耳を疑った。反応できずにいると同じ言葉を繰り返されて、嘘や冗談なんかじゃないのだと思い知らされる。
顔を見たことのある気がする同級生。その程度の認識しかなかった目の前の男子生徒の、その名前を私は知らない。けれど彼は私を知っていて、そしてたった今、好きだと、言われた。
告白された。伏せ気味の顔は不安そうで、けれど耳まで赤い。告白されたのだ。私が、彼に。それに理解が及ぶまで、何十分もの時間が経った気がした。実際のところは、どうだろう、一分も経ってなかったのかもしれないけれど。

「え、と……」

彼はただじっと私の言葉を待っている。何を言えばいいのか、私は何度も躊躇って、けれど黙ったままではいられなくて、どうにか喉を震わせた。





「こくはく、された」

友人にそれを言うと、彼女はポテトを嚥下してから頷いた。息を切らせていた私にジュースを差し出してくれ、私はありがたくそれを戴く。冷たい液体が喉を通り抜けた。
「注文は?」友人が手を差し伸べ、私はのろのろとした動作で鞄から財布を取り出す。それを渡して、いつもの、と伝えれば彼女は頷いて席を立った。
さっきの人と別れてから急いで来たものだから、ひどく疲れた。疲れ以上に混乱もしていた。友人のジュースをもう一口貰って深く息を吐けば、ようやく少し頭の整理がつく。すると脳裏に甦るのはさっきのことだ。

声を掛けられたのは、友人とともに下校しようと下足場に向かっている最中だった。話がある、ふたりで話したいと言われ、友人はマックで待ってるからと先に行ってしまって。そして、それから、告白、されて。

「それで、どうだったの?」

いつの間にか戻ってきていた彼女の声に、思わず肩が跳ねる。そんなに驚かなくてもと苦笑する彼女は私の前にトレイと財布を置いた。財布を鞄に戻し、私の言葉を待つ彼女に誤魔化せないことを悟る。誤魔化すつもりもなかったけど、と、私は自分のドリンクにストローを突き刺しながら短く溜め息を吐いた。

「断った、よ」
「でしょうね」

間髪入れずに彼女は頷く。「だって、貴方は好きでもない人と付き合えるほど器用じゃないもの」断言する友人に何とも言えない感情を覚えるけれど、彼女は私のことをよく理解している。私は食満先輩が好き、だし、その想いに蓋をして殆ど知らない人の告白に頷くことなんて出来なかった。

「それで、沈んだ顔の理由は?そいつが逆ギレでもした?」
「ううん」
「じゃあ、何?」

断ったとき、あの人はそっか、と言っただけだった。そのあと交わしたほんの少しの一言二言でも、恨み言なんてひとつもなかった。
でも、きっと何か言われていた方が楽だっただろう。せっかくの好意を無下にしてしまったことに申し訳ないという思いが消えないのだ。その想いに応えられないのは本心だったけれど、もっと伝えるべき言葉があったんじゃないかと考えてしまう。ごめんなさいやありがとうだけじゃ足りなかったんじゃないかと、後悔の渦に呑まれてしまう。
このことを彼女に話せば答えを貰える気はしたけれど、きっと彼女は私に優しい答えをくれる。そう思うとなかなか口を開く気にはなれなかった。これは自分で悩むべき問題なのだと、私は思う。

「……言いたくないならいいけど。気にしすぎるんじゃないわよ」
「……うん、ごめん」

口をつぐむ私に対し溜め息を吐くだけの彼女には、私の考えは分かっているのかもしれない。それでも追究しない彼女の優しさに甘えながら、私は素直に頷いた。

「そうね、じゃあ、修学旅行の準備は出来た?」
「……うん、さすがに明日からだからね。一応、最終チェックはするけど」

話題を変えて私たちは話を続行する。ここ暫く繰り返されている修学旅行の話だ。いよいよ明日出発するそれに、私は複雑な内心を誤魔化すように楽しみだと笑った。




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