少女Αの心配

返信した後も信じられなかった。携帯電話の液晶を見詰め、差出人と本文を何度も何度も確認、そこにある食満先輩の名前と、観たかった映画のタイトルに頬が緩むのを少しでも抑え込もうと試みる。
ぱくぱくと弁当を食べ進める友人は何も言わない。ただ早く食べろと目で言われたけれど、私は既に胸がいっぱいだ。主に喜びと不安で。

「ほ、本当に良かったのかな。本当は別の誰かに送ろうとしたとかじゃないよね?ああ、文章変じゃなかったかな」
「うるさい」

私の言葉は一刀両断。それでもうじうじと悩み続ける私に、友人は箸を置くと盛大に溜め息を吐いた。私は反射的に姿勢を正す。彼女の深い溜め息は、説教タイムの始まりの合図だからだ。

「いい?嫌いな奴を遊びに誘う奴なんていないの。少なからず好意を持ってるから誘ってくれた、だから喜んで行くべきに決まっているでしょう。それからメールにはあんたの名前があった、そんなメールを他の奴に送るわけない。文章については私が一緒に考えたんだから心配しないの。それとも私が信用できない?」
「う、ううん、信用してる。あの、じゃあ、当日は」
「何着て行ったらいいか分からないなら、今度の日曜日に買いに行きましょう。可愛い服だときっと喜んでくれるわ。どうしても心配なら、私が見繕ってあげる。他にも何か不安があるなら相談に乗ってあげるから、今はとりあえず食べなさい」
「……うん、ありがとう」

友人はなんだかんだ私に優しい。今抱えていた筈の不安と心配がすっと何処かに消えてしまった。ああ、テンパりすぎたな。最近の私は恋に浮かれすぎて何処かおかしいみたいだ。こうして引き戻してくれる我が友には、日曜日にクレープか何か奢らせてもらおうと思う。
友人が再び箸を手に取るのを見て、私はようやく箸を握る。胸いっぱいでも胃に何も入れなければ授業中に恥ずかしい思いをするだけだ。玉子焼きをつまみ上げ口に運ぶと、甘い味が広がった。

「あや、楽しみ?」
「うん」

私が頷くと肩を竦めてみせた彼女の反応を見るに、私の顔は情けないくらい緩んでるんだろう。




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