友人Ζの支援

メールの文章を何度も確認する。本文を一字一句暗記してしまっても確認する。「今日はやけにケータイを見てるな」なんて留三郎に言われたけど、もしや彼女でも出来たのかと疑われたけど、それでも確認する。もし間違えても不運のせいには出来ないからだ。っていうか、君のためなんだからね。
作戦決行は今日の昼休憩。他のクラスの皆は体育や移動教室で集まれない水曜日の昼休憩だけが、絶対に邪魔されないチャンスだからだ。
最終確認を終えると携帯電話をポケットにしまい、僕は弁当を広げ始めた留三郎へ告げた。

「留三郎、そろそろデートの約束でも取り付ければいいんじゃないかな」

ガタガタッ!
大きな音にクラス中の視線が集まったけど、それが僕らだと分かるとすぐ元に戻った。いつも僕が机を倒したり筆箱をひっくり返したりするからだと思う。
けど、今回椅子から落ちたのは僕じゃない。動揺した留三郎だ。
顔を真っ赤にして金魚みたいに口をパクパクさせる留三郎にお茶をすすめる。それを一口飲んだ留三郎は深く息を吐いて、少し落ち着いてから改めて、きっ、と僕を睨み付けた。それが照れ隠しだというのは分かっているから怯むこともない。どうしたの、と訊けば、彼は小声で叫んだ。

「ま、まだ早いだろ?!」
「そんなこと言ってたら誰かに盗られてしまうよ」
「っ……!」

その一言で留三郎は押し黙る。予想より簡単に終わりそうだ。僕は安心して、でも油断はしないように畳み掛ける。

「初デートなら映画とか無難なコースがいいね。あ、ちょうど君が借りた本の著者、ええと、名前は忘れたけど、その人が原作の映画が公開中だろう?それがいいんじゃないかな。本のお礼とか言えば大丈夫だって、ほらメールしよう。そうだなぁ、日程は来週の土曜日くらいがいいんじゃないかな。ご飯のことは、まあ待ち合わせの時間を決めてから考えようか。何をしているんだい、はやくケータイ出して」
「お、おお……」

本文から送信まで急かして急かして、口を挟む暇を与えなければ言う通りに動いてくれた。送った後で心配そうに眉尻を下げるけど、何も心配いらないんだけどな。
僕はもう一度携帯電話を取り出してメール画面を開く。そこに映っているのは彼の想い人である飛鳥井さんの情報。空いている日や興味があるものが並べられたそれは、彼女の友人からの情報だから間違いなんてある筈ない。
すぐに送られてきた返事を見て、赤くなる顔を隠すように手で覆った留三郎に、僕は「よかったね」なんて言いながら不運を発揮しなかったことに安心した。僕に降りかかる分はいいけど、僕のせいで留三郎や飛鳥井さんに悲しい思いはさせたくないから。


 

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