天女様のお守り

夜になり、学園長から言い渡されたのはやはり天女様の傍に控えておくことだった。いざとなれば抱き抱えて逃げる。忍たま六年生のようにその状態で敵と対峙することはできないけれど、逃げるくらいなら私にだって容易い。相手にもよるけれど。
いつ来るのか、何者なのか、といったことは忍たま五年生やくのたま上級生による調査の報告待ちであるため私は今日から天女様の庵で待機することになる。そのことを伝えれば天女様はうふふと笑い、「一緒の布団で寝ましょうねぇ」と楽しそうにしていた。有事の際に動けるよう布団に入るつもりはないので断っておく。
一年生二年生は学園長の突然の思いつきとして杭瀬村や園田村にオリエンテーリングに向かっている。三年生四年生には役割が与えられているけれど五年生が守れるようになっていて、直接対峙するのは六年生や先生方らしい。それらを伝えてくれた食満くんの表情があまり晴れやかでないのは、天女様を直接的に守れる立場じゃないからだろうか。

「本当は天女と一緒にいさせたくはないんだけどな。あいつが咲子を傍に置かないなら嘘八百並べ立て末代まで呪ってやると脅したらしい」
「そうなんだ……」
「無理はするなよ。いざとなったら見捨ててでも逃げろ」
「ふふ、食満くんたちが前線で守ってくれるから、大丈夫だよ」
「……そう言われちゃ、鼠一匹通すわけにはいかないな」

天女様を守る役目に気負いすぎないよう冗談を言う食満くんは優しい。それに頷きながら続けた私の本心からの言葉は、どうやら食満くんを照れさせたようだった。それを隠すように演技めいた調子で格好いいことを言うから、私は笑って見惚れたのを隠すしかなかった。

「咲子、そろそろ寝ましょう?同衾してくれないなら私が眠るまで手を繋いでてねぇ」
「あ、はい。じゃあね、食満くん」

庵の襖から顔を覗かせる天女様の呼ぶ声に、私は名残惜しいながらも食満くんに手を振る。食満くんは何か言いたげにしたけれど結局手を振り返してくれただけだった。
庵に入り、すぐに布団に入る天女様の隣に膝を着く。差し出された白い手をそっと握れば、天女様はうふふと笑った。

「咲子、心配?」
「何が、ですか?」
「学園のことでも、食満留三郎のことでも、私のことでも、貴方のことでも」
「……」
「答えなくてもいいわぁ。予言してあげる。ぜぇんぶ、うまくいくから」

答えに迷う私に、天女様はそんな言葉を紡いだ。にっこりと、ぞっとするくらい綺麗な笑みを浮かべて。
全部とは、なんだろう。私が訊くよりも早く天女様が「おやすみぃ」目を瞑る。規則正しいとはいえない寝息はあからさまに狸寝入りだけれど、訊ねて答えが返ることはなかった。
私は溜め息をひとつ吐き、軽く目を閉じた。薄い気配やほんの些細な物音に注意する。食満くんや他の六年生たちは強いけれど、万が一がないとは言い切れない。いざというときは私も頑張らなくてはならない。皆の、食満くんの大切な天女様に、傷ひとつ付けるわけにはいかないから。






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