天女様への贈り物

「よ、よお、咲子」
「こんにちは、食満くん」

天女様が来てから変わったことといえば、友人と過ごす時間が減ったとか体重が少し増えた気がするとか色々あるけれど、一番印象的なのがこうやって食満くんと話をする機会が増えたことだった。食満くんと話せることは今でも緊張して、やっぱりとても嬉しいことだ。

「今日は天女の相手じゃないのか?」

たとえ食満くんの興味が天女様の方を向いていても。
意識していたから、私はちゃんと笑えているだろう。食満くんの前では変な顔はしたくないのでしっかりしなければ。
きっと食満くんは天女様の情報が欲しいんだろう。食満くんだけじゃなく、他の六年生や五年生からもたまに話し掛けられるし、その殆どは天女様のことだ。居場所だとか一緒じゃないのかとか、そういったこと。世話係に任命された私に訊くのが一番手っ取り早いのは自分でも理解していた。だから私は戸惑うことなく答える。

「天女様は庵で休んでるよ。朝は一緒だったんだけど、午後は私も授業が入ってるから。食満くんは?」
「忍たまは今から委員会の時間でな。今日は町に買い出しだ」
「そっか。頑張ってね」

委員会なら天女様のところに行く時間は取れなさそうだ。きっと残念なことだろう。それを少し嬉しく思ってしまった自分を心のなかで叱責する。食満くんが天女様のことを好きだというのなら、その想いが叶ってほしかった。私の想いが叶わなくとも、食満くんに幸せになってほしい。そう願うことができないならば、恋情など抱いてはいけない気がした。
私がこんな醜い思いを抱えていることに食満くんは気付かず、彼は優しい笑顔をこちらに向けた。まるで太陽のようだと思う。七松くんのような夏の強い太陽でなく、暖かな日溜まりを作ってくれる優しい太陽。なんて、彼のことが好きだからそう思うのだろうか。

「そうだ、道中休憩に寄る団子屋があるんだが、そこがなかなか美味くてな。よかったら土産を買ってこよう」
「え、いいの?」
「ああ。しんべヱのお墨付きだから、期待しててくれ」
「ふふ、楽しみにしてる」

食満くんの優しさを、天女様は知っているだろうか。食満くんからそれを受け取ったら、天女様にも食べてもらおう。そうすればきっと天女様だって食満くんの優しいところを知ってくれるし、そうしていけば食満くんの想いも実るかもしれない。

「無理はするなよ」
「ありがとう、食満くん」

考えれば考えるほどやっぱり胸は痛むけれど、その言葉で私は笑っていられる、そんな気がした。





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