天女様は美しい

天女様はその自称の通り、とても美しい方だった。相貌も仕草も併せて考えれば山本シナ先生が私の知る限り一番美しいけれど、相貌だけでいうならば天女様がいっとうだ。粗野が雑でなければもっと美しいのだろうけれど、これはこれで艶っぽく感じてしまう。つまり男にとって、非常に魅力的な方だった。
だからだろう、学園の上級生は皆彼女に夢中らしい。天女様のもとにはよく彼らが遊びに来るそうだ。大体は私の授業中のことらしく、私は話で伝え聞くだけだったけれど。天女様は私がおつかいで買ってきた菓子以外にもよく食べ物を贈られていて、それを食べている姿はよく見られた。ちなみにそういったお菓子は私に分け与えられることはない。勿論天女様への贈り物に手をつけるつもりはないのだけれど、一度包みを手にしただけで酷く怒っていたから、もう二度と同じことはしないよう心に決めた。そういえば天女様が怒ったのはそのときだけだ。心が広いのか何なのか。
天女様はそういったお菓子は口にするが、食堂のご飯は食べていなかった。別に食べる必要もないそうだ。菓子はあくまで嗜好品で、主食は霞のようなものらしい。ただおばちゃんの料理には興味があるようで、そのうち食べてみたいわぁと笑っていた。学園長からは好きにさせるよう言われているので、天女様が望んだら運ぶこととする。
天女様は大体いつも庵の中で過ごしていた。私のいないときは分からないけれど、授業が午前のみだったある日、朝別れる前には畳に横になっていた天女様が昼にも同じ位置にいたこともある。天井板の模様を眺めていたのと笑うけれど、それが楽しいのかどうかは何とも言えない。

天女様は一体何者なのか未だによく分からないけれど、今のところ悪いひとではなさそうといった印象だ。何のためにこの学園に来たのかは学園長も教えてくれないけれど彼女の自由を許しているのだから学園に仇なすつもりもないのだろうし。だから世話係もけっして嫌なわけではないのだけれども。

「咲子」
「あ……食満くん」

このときばかりは、ちょっとだけ心が痛むのだ。





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