天女様の世話係

学園長と天女様の話の結果、天女様は暫く学園で過ごすことになったらしい。そして何故か私がその世話係に任命された。空いていた庵を天女様が使えるように掃除をして、井戸や厠の場所を案内して、天女様の話相手をして、などとしながら数日を過ごす間にすっかり告白する勇気は鳴りを潜めていた。この調子じゃあ食満くんを前にしても告白なんて無理だったのかもしれないと考えている私はどうしてこうも逃げようとしてしまうのだろう。はぁ、と暗い思いを吐き出すように息を吐いた。

「どうしたっていうのよ、咲子」
「いえ、何でもありません、天女様」
「溜め息吐いて何でもないとはねぇ」

まぁ話したくないのならいいけれど。そう言って天女様は私の買ってきた団子の串を白くほっそりとした指で弄びながら笑う。足を崩して座る天女様は着物の合わせから足が露になっていても気にしていない。一度やんわりと注意しても「誰も見てないからいいのよ」ところころ笑うものだから、私はもう気にしないことにしていた。多分、潮江くんとかが見たら怒ると思う。いやどうかな、天女様だしなぁ。

「ほら、あんたも食べなさいな」
「あ、はい。いただきます」
「いい子ねぇ」

天女様に勧められ、私は串を一本取る。団子を買ってきたのは私だけれど、その代金を出したのは天女様だった。町に行く用事があれば何かしら買ってくるよう言い付けてくる天女様は幾らほど持っているのだろう。そんな下世話なことを考えつつも買って帰れば、天女様は毎度私に一緒に食べるよう勧める。最初は毒見でもさせてるつもりなのかと思ったけれど、天女様はまず自分から食べるし、自由に選ばせるから、ただの好意だと受け取っていた。

「そういえば今日は授業ないのぉ?」
「午後からあります。また湯あみの時間にお迎えにあがりますね」
「うふふ、ありがとぉ」
「天女様のご予定は?」
「いつも通り、遊びに来る奴らのお相手よ」

その言葉に一瞬反応してしまう。気付かれなかったかと天女様の様子を窺えば、天女様は欠伸をしながら天井を仰いでいた。恐らく気付かれていないことにほっとする。

「今日は、そうねぇ。六年生がくるんじゃないかしらぁ」

六年生か、そうか。そりゃあ天女様はいっとう美人な方だから、放っておけなくても仕方がない。そう自分に言い聞かせて、じくじくと痛む胸の内を見ないふり。きっと彼も来るのだろう。告白なんて、しなくてよかったのかもしれない。していたらもっと苦しかった。仕方がないの、だって相手は天女様なのだから。





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