天女様、襲来

想いを、告げようと思う。

まだ幼かった一年生の頃、私は恋をした。ずっと想いを胸に秘めて、それを伝えることもできずにずるずると六年生にまでなってしまった。想いは募る一方で、彼を視界にいれるだけで胸が高鳴る。まるで成長していないけれど、ずっとこうしていられるわけではないのだ。そのことは理解していたつもりで、真に考えたのはつい先日のこと。
このまま何もせず卒業を迎えたならば、もう視界の端にもあのひとが映ることはなくなってしまうのだ。それはあまりに悲しく、恐ろしいこと。私の五年と少しの期間は授業を除き殆ど彼のことばかりを見ていた。おつかいが入り姿が見られないだけでも悲しいことなのに、二度と会えなくなってしまったら私は一体どうなるのか、想像すらもできなかった。
だから想いを告げる。もし受け止めてもらえたならば幸せだけれど、振られてしまっても今のうちに悲しめば吹っ切ることもできるだろう。一歩も進めなくなる前に、私は歩み始めようとした。

そのときだった。
空から凄い勢いで、何かが降ってきたのは。



もうもうと舞い上がる土埃が落ち着いてきた頃、そこにひとの姿があることに気付く。真っ直ぐに立つそれは、おそらく女。長い髪を艷やかに結い上げ、あの土埃の中でもきらびやかな着物は汚れひとつない。少々つり上がった長い睫毛に縁取られた目がこちらを捕らえた。ゆるやかに両手を挙げられて、傷ひとつない白磁のような肌が露になる。

「天からの御使いで来てやったわぁ。この学園の長に目通り願いたいのだけれどぉ」
「は、はあ……えっと、お名前は?」
「あんたは学生ねぇ?うふふ、私のことは天女様とお呼び」
「……ええと、天女様。学園長先生に確認してきますから、少々お待ちいただけますか」
「なるべく早くねぇ」

多分私は物凄く混乱していた。天女様とやらに言付けられ、すぐに学園長の庵へと走り出していたのだから。周囲に忍たま六年生がいるのを確認したとはいえ、不審者を放置してその場を離れるとは、忍びとして失格だろう。後で山本シナ先生に怒られるに違いないと覚悟は決めておく。
ああそれにしても、告白するつもりだった筈なのに、何故こんなことになっているんだろう。ちょっとこの展開、意味が分かりません。



 

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