天女様の世話係の役割

どうして、と言われても。私の役目は天女様を守ることだった。よく分からない化け物相手であったから混乱していたのもあり最善策ではなかっただろうけれど、結果として怪我はないようだから問題ない、筈だ。褒められた働きではないのは分かる。けれど責められるでも落胆されるわけでもないその反応の理由が分からなかった。

「私の役割は、天女様をお守りすることだったから」
「だからといって咲子が庇う必要はなかった」
「確かに短絡的だったかもしれないけど、咄嗟に他の手段は思いつかなくて」
「違う。あれを、天女を庇う必要なんてなかった、って意味だ」

食満くんの言葉に驚く。確かに天女様は庇う必要がないくらいに強かったとさっき知ったばかりだ。食満くんはもっと以前から知っていたのだろう。けれどそれでも好きなひとが危ない状況にあったら心配するものではないのだろうか。

「すまん。滅茶苦茶なことを言ってるのは分かってるんだ。咲子は役目を果たしただけなのに責める道理は一切ない。八つ当たりのようなものなんだろう。でも納得がしたい。咲子に、役目を抜きに天女を守る意思があったのかどうか、教えてくれ」

食満くんの言っていることの意味は、あまり分からなかった。でも、何故そんなことを訊くのかは分からずとも、何を訊いているのかは分かる。ならばそれには答えようと、私は口を開いた。

「あったと思う」
「……そうか」
「だって、好きなひとの好きなひとだもの」
「……は?」

好きなひとが傷付いたら悲しい筈だ。好きなひとが悲しむならば、自分の身を挺してでも守りたかった。
食満くんはいつもはきりりとしている目を丸くする。呆れというよりは驚きの声を洩らして、慌てたように「ちょっ、ちょっと待て」そう続けた。

「誰のことだ、好きなひとって」
「天女様でしょう?」
「そうじゃない、天女のことを好きとか言う、咲子の好きな奴!」

天女様のことを出したのはわざとだ。それで誤魔化すことができればいいと思いながら、誤魔化せるわけがないと分かっていて言ってしまった。私は目を伏せる。本人に、それを訊かれるのは変な気持ちになる。恥ずかしいような、申し訳ないような、悲しいような、よく分からない気持ち。けれどやっぱり答えないという選択肢はなかった。
ほんの少し前、覚悟したことだ。あのとき鳴りを潜めてしまった勇気をもう一度無理矢理にでも引っ張り出せばいい。小さく息を吐き出して、顔を上げる。食満くんの真剣な目が、格好いいと思う。そうやって真正面から顔を見れることはもうないかもしれない。それでもいいと思えるように、私は目に焼き付けるようにしてただ食満くんを見つめて、答えた。

「私の好きなひとは、食満くんだよ」





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