心中

(きゅるってる)



第2日/4:44:39

全てはこの赤い水のせいなのだろう。これが多量に体内に入れば、血液の代わりに身体を巡りあのような化け物になる。爆破させても、どれだけ切り刻んでも、自己再生してしまう。まったく忌々しい。私は書き殴ったカルテを適当に放り出すと、愛しい恋人を拘束していた縄を解いた。
なまえには酷いことをしたな、と、その髪を撫でる。此処には麻酔薬もないから、ひどく痛かっただろう。ぎゃあぎゃあと叫ぶ声はまだ耳に残っている。まあ、薬は恐らく効かなかっただろうし、どれだけその腹を裂こうと内臓を弄くろうと時間が経てば何事もなかったかのように塞がってしまったけれど。

「さぶろ……さぶろ、う」

縄が外れたばかりの右腕が、私へと伸ばされる。その手に指を絡ませてやればなまえはにこりと笑った。血の気はないし汚れてはいるけれど、私の好きな笑みだ。

「さぶろ、も、ねえ?」
「……なまえ」

なまえが奴等の仲間入りをしたのは、私のせいだった。守りきれなかったのだ、すぐ傍にいたというのに。なまえを囲んでいた奴等を倒したときには遅かった。次に目を開けたなまえは、血を流しながら笑っていた。

そんな彼女を実験台のように、いや、実験台よりもひどく扱った私を、なまえはどう思っていただろうか。殺してやらなければならないと、思ったのだ。奴等と同じになるのは苦痛だろうと。殺す方法を知るために、なまえの体内に何度もメスを入れた。叫び声を聞きながら、どうすれば終わるのかを探していた。求めた答えは、見つからなかったけれど。
まったく情けない私に、なまえは手を伸ばした。此方へ来いと、私を誘った。その行動は私を許しているのだろうか。憎んでいるのだろうか。私には分からなかったけれど、考えた末の答えは、ひとつ。
ひとり化け物でいさせるくらいならば、私も同じになればいい。

「いいよ、なまえ。私も連れていってくれ」

私がやってきたこと、知ったことは全てカルテに残しておいた。きっと後は求導師か、何処かの誰かがうまくやることだろう。他人任せと言われても、私はその言葉を甘んじて受け入れよう。
さすがに、私も飽きてきたのだ。なまえがいない世界に。なまえがいるならばどんな地獄だろうとともにいこう。

「さぶろ……あいしてる」

私もさ。
冷たい指先が私の首へと回される。徐々に力が込められる。なまえの声に答えられないことだけが口惜しい。私はなまえの笑顔を最後に写し、そっと、目を閉じた。



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