友人について

「直子のばあさんが、死んだんだ」

久し振りに会った友人の言葉に、伊作は笑顔を凍らせた。老衰ではなかったのだろう、彼の暗い顔から推測するのは簡単だ。そしてきっと病気や事故でもないのだろう、彼の目はそれを物語っていた。
きっと、喰われたのだ。だから留三郎はそんな目で自分を見る。暗く憎々しげな色を乗せた目で。けれどその表情は辛く悲しげで、だからこそ伊作を戸惑わせた。

「伊作、ひとつ聞いておく」
「な、何……?」
「お前が殺したんじゃ、ないんだな?」
「違う!」

考えるよりも先に答えていた。体が震える原因は怒りでなく悲しみであった。友人に疑われたからじゃない、同胞が殺したからじゃない、ただ、自分と彼等は違うのだと、その事実を突きつけられた気がして、心が締め付けられた。そしてその悲しみは次に恐怖を生んだ。自分と彼とは違う。人間は敵だと仲間は言った。彼が的だとしたら、彼の背負う猟銃が、その銃口がいつこちらを向くのだろうか。
彼はきっと、自分を殺すのだと。ただ、恐怖した。

「……そう、か」

だから気付くのに時間が掛かってしまったのだ。留三郎がその答えにほんの少し表情を和らげたことに。短く吐いた息が、安堵のそれだったことに。

「それなら、いい」

留三郎が背を向けて歩き出す。伊作は追うことが出来なかった。またしても体は震えている。但し、今度の震えは焦燥からのものだった。
どうして、彼が自分を殺すなどと思えたのだろう。留三郎は猟銃を猟銃を肩にかけたままだったというのに。銃口を向けずに、構えもせずに、自分と相対していたのに。
先に間違えたのは、自分だった。




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