あのひとのこと

食満留三郎という男は、真っ直ぐな男だった。
かつての学園、二年生の半ばに出会ったくのたま一年生に一目惚れをし、それから毎日のように好きだ一緒になってくれと学園を賑わせていた。器用なのは手先だけで想いの伝え方の工夫も出来ず、無理だと一蹴されても理由を懇切丁寧説明されても諦めるなどしなかった。馬鹿みたいに真っ直ぐに、ただ想いを貫くしかできない男だった。

「なあ、仙蔵。頼みがあるんだ」
「相原についてか?」
「ああ。贈り物をしたいんだが、助言を貰えないか」

卒業を目前に控えた時期にまでそんなことを言う留三郎に、私は呆れすらも感じなかった。今の流行物は何だったかと考えながら、私はまたかと一応程度に肩を竦めてみせる。それが常のやり取りだ。

「卒業間際になってまで、お前は変わらんな」
「仕方ないだろ、好きなんだから」

私の挙げた助言を書き留めながら照れもせずに言う留三郎は、やはり変わらないままだ。認めた後にほんの少し頬を緩めるところもずっと同じ。その様子は友として好ましいとも思う。級友としては心配するべきかもしれないが、留三郎の場合は溺れるものではないのだろう。

「そんな調子で卒業試験は大丈夫なのか?」
「当たり前だ。憐を悲しませるわけにもいかないしな」
「恋仲でもないのに何を言っているんだ」
「それを言うなよ……まぁ、俺は諦めていないが」

学園の卒業生を名乗るために課せられる試験は生半可なものではない。しかし色に溺れるような者はそもそも最終学年まで上がることもできない。それも分からず留三郎を嘲笑う者もいたが、そいつらは早々に学園から退場していった。相原憐の存在は留三郎を腑抜けにするどころかより強くなる切っ掛けになっていたのかもしれないし、元々留三郎が努力家だったのかもしれない。今となっては分からないが、留三郎の実力を心配する同級生はいないことだけは確かだった。

「期限はもうすぐ先だぞ」
「分かってる。気を遣わせて悪いな」

心配があるとすれば、相原についてのことだけだ。卒業してしまえば滅多に会えるものではない。留三郎が何処かの城に就職するのかフリーになるのかは知らないが、卒業生が一年も経たずに学園を訪れるなど稀にしかない。特に私用での訪問など私の知る限り居なかったはずだ。
だからこそ口にして確認をする。覚悟は決めているのかと、きっといらぬ節介のままに。やはり私よりも先に誰かに言われていたのだろう、留三郎は苦笑して答えた。

「幾ら俺でも。卒業したら、さすがに秘めるさ」

我々が学園から巣立ち、一年もすれば現在の五年生も卒業だ。卒業生が何処に就職するのか、学園長先生ならば知っているが他の者に漏らすことは滅多にない。卒業生になど当然あり得ない。だから我々の卒業が最終期限であり、その後再び巡り会うなどという奇跡は起こらないだろうと思っている。
それでも、諦めることはないのだろう。食満留三郎という男は馬鹿みたいに真っ直ぐに、ただ想いを貫き通すしかできない男だった。




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