すなおなきもち

好きだから、告白する。後悔したくないから、告白する。ちゃんと拒絶されたら、気付かれないように遠くから見つめるだけにする。それでもずっと想い続ける。そう幼い頃から宣言していた憐は、今日もまた食満先輩に告白をする。
まったく馬鹿な奴だと呆れながらも笑うことはできない私は、今日も収穫なく戻ってきたらしい憐に「おかえり」と言ってやるしかできなかった。

「ただいま」
「今日も相変わらずだったか」
「うん」

特に落ち込んだ素振りも見せない憐は、むしろ嬉しそうに頷いた。今日も振られたわけではないらしく、私はいつもと同じように複雑な想いを飲み込み彼女の話に耳を傾ける。

「今日は漫画雑誌を読んでたわ。なんの漫画だったのかしら」
「今日発売なら今八左ヱ門が読んでいるのと同じだろう」
「ページは黄色っぽくて……ああそう、絵もこんな感じだった気がする」
「こら憐、勝手に捲んなって」

突然ぺらぺらとページを捲りだす憐の行動はいつものことで、八左ヱ門も呆れた様子で軽くたしなめるだけだ。そのまま読み進めて「こういう子がいいのかしら」などと呟く憐は食満先輩相手にツンデレにはなれないだろうし効果はないだろうからやめておけ。
そうしてふざけているのを眺めていると、後ろから肩を叩かれた。私の背後にあるのは廊下に面した窓で、そこから話し掛けてくるような奴は限られる。振り返れば予想通り一組の勘右衛門と兵助が顔を覗かせていて、気付いた八左ヱ門や憐がふたりに挨拶をした。

「憐、今日の分の告白済ませてきたのか?」
「ついさっき」
「相変わらず憐ちゃんは、食満先輩がお好きだね」
「ええ、大好きよ」

ふたりの軽口にもさらりと答えるのは、それが本心だという証だろう。恥じ入ることもなく胸を張る憐は堂々として輝いて見えた。
それは私の願望でしかないのかもしれないが。

「せっかくの人生なんだから、素直にならなきゃ。もう後悔なんてしたくないもの」

そう宣言する憐に相槌を打つ勘右衛門たちは、その言葉に込められた意味を理解していないだろう。憶えていないのだから仕方がない。憶えていたとしても、その言葉が真に理解できるのは私だけなのかもしれないが。
それでいい。憶えていなければならないのは勘右衛門でも兵助でも八左ヱ門でも雷蔵でもなく、私なのだ。
憐の力になるのは、私の役目なのだから。




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