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男子バレー部のマネージャーの仕事はまぁ少なくはないが、ドリンク作りとスコア付け、それから倒れた部員の看護が三本柱といったところか。そう千鶴が判断するのに入部から然程時間は掛からなかった。というか倒れる部員が少なくなく、それ以外の仕事をする時間がないのだ。入部して間もなく退部届けを提出する者も多く、ずらりと並んでいた筈の一年生の半数以上は既に消えている。聞けば毎年同じような状況らしく、一ヶ月もすれば更に半数になるだろうと上級生たちは語った。
練習前のランニングであれだけ走るのだからやめるのも仕方がないなと、千鶴は思う。そのランニングを耐え抜きボールを触れるようになっても、レシーブ練習で顧問の殺人アタックを受けさせられて意気消沈した者も多数いるくらいだ。もう少し緩やかに段階を踏めばもっと残っていたとは思うが、けれどこの厳しい練習に挑戦できるような部員でなければユニフォームを受け取る資格はないのだろう。千鶴はそう考え、日々練習に励む部員のためにドリンクを作りスコアを取る。癖のある部員もいるが、千鶴はそこそこ男子バレー部を気に入っていた。ついでに、顧問のことも。

「内村は、バレーは好きか?」

ある日顧問である小平太にそう訊かれ、千鶴は少し悩んでから答えを出した。

「まあ、見る分には好きですね。基本的に自分がやるより、頑張ってる人を応援する方が好きなので」
「そうか。……じゃあ、私も頑張るから応援してくれるかっ?」
「え……七松先生が頑張ったら倒れる部員が増えるんですけど……ああ、いや、分かりました応援しますだから落ち込むのやめてください」

変わった教師だと、千鶴は思う。子どもっぽいのは元来の性格だろうが、時々寂しそうな顔をしたり、何かを言いたげにしている。だがそれに気付かれまいとして、やけに明るく振る舞ったり。部員を気絶させたり備品を壊したり面倒くさいことも多いが、それでも何故か嫌いになれない変な教師だった。



ということを部活動のない放課後にかいつまんで話していると、それを聞かされていた文次郎はぽつりと「よかったな」呟く。

「え?」
「マネージャーは楽しいんだろう?」
「……まあ、そうね」

楽しい。多少の大変さはあるが、部員の練習に比べたら軽いものだ。それに部員はいい人が多いし、顧問も嫌いじゃない。忙しいのもやりがいがあるし、マネージャーになって後悔はしていない。だからきっと、楽しいのだろう。

「文次郎は?生徒会、楽しい?」
「まあ、やりがいはある」
「ふぅん」

訊いておきながら興味のなさそうな反応に、文次郎は呆れたように息を吐く。が、それもまたいつものことだ。千鶴が話の続きに戻れば文次郎も相槌を打ち、ゆるやかな時間を過ごしていった。




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