君への距離 06

私はゆっくりと息を吐く鉢屋くんから視線を外すことなく、ぎゅっと自分の手を握った。

「……みょうじは、雷蔵が好きなのか?」
「え、」

予想外の言葉に耳を疑う。
不破くんが好きかと鉢屋くんは訊いたのか。『友人として』なんて条件下での答えは求められていない、と思う。ならば答えはノーだけれど、鉢屋くんは私が答える前に言葉を続けた。

「笑うのはいつも雷蔵にばかりじゃないか。私の前じゃ笑うどころか目もあわさない。雷蔵の真似をしてみても気付いてしまうし、何なんだお前は、そんなに雷蔵が好きなのか。雷蔵が好きだから判別がつくとか、そういうつもりか。冗談じゃない」

堰を切ったように流れ出る言葉に、それを口にするたびに悲痛なものになる表情に、私はただ唖然とするしかない。
自意識過剰なんだろうか。それは私が気に食わないというよりも、寧ろ不破くんに嫉妬しているみたいだった。まさかそんなことは、と思いながらも期待してしまう私は思ってた以上に馬鹿かもしれない。
視線があう。真剣な眼差しのなか、鉢屋くんは私の手に触れた。握った拳をそっと開かされ、優しく、けれど簡単には引けない程度の強さで握られる。

「もっと私の方を見ろ」
「あの、鉢屋、くん」
「私を、見てくれ」

重なる掌が、ひどく熱い。




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