君への距離 05

鉢屋くんの背中を追いながら、私は最悪の展開は何だろうかと考える。たとえば、私は鉢屋くんに嫌われていて、仲良しの不破くんに優しくしてもらってるのが気に入らない。不破くんに近づけたくなくて不破くんと入れ替わったりしてたけど、私が分かってないからこれからきっぱりと忠告する、とか。
いや、さすがに考えすぎだと思う。考えすぎであってほしい。嫌われてるにしても本人の口から言われるまではそうじゃないと願っていたい。

考え事を払うように前を向けば、鉢屋くんは非常階段のドアを開けたままこちらを見ていた。私が通れるように開けてくれているのだと分かって、私は早足でそこを潜り抜ける。

「あ、ありがとう」
「いや」

鉢屋くんが手を離せば、バタンと重い音を立ててドアが閉じた。途端に音が遮断される。昇降口から遠い場所にある此処は、放課後も部活が始まらないうちは凄く静かだとはじめて知った。この空間だけ切り取られたみたい。

「ええ、と……」

あまり広くない空間では、必然的に鉢屋くんとの距離が近くなる。ドアに背を向けて立つ私に後退できる余地はなくて、私は今まで以上に落ち着かない心境のまま鉢屋くんと向き合った。

「みょうじは、」

鉢屋くんはじっとこちらに向けていた視線を伏せて私の名前を呼ぶ。その声は何度か休み時間に聞いたもので、はじめて目の当たりにしたその表情は言葉を吐き出すことがひどくつらそうに見えた。そうして紡ぎだされる言葉に耳を塞ぐことはできる筈がない。




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