君への距離 04

鉢屋くんは午後の授業をすべて不破くんとして過ごした。休み時間には鉢屋くんが声をかけてきて、私はたどたどしく受け答えをするしかない。じっと見られている気がして挙動不審に拍車がかかる。
しかもこれは一日だけのことじゃなかった。彼らはたびたび入れ替わって私を驚かせる。鉢屋くんが隣の席にいることに慣れなくて、私は視線を落としっぱなし。こんな近くで長時間過ごすことなんてなかったからどうにも落ち着かなくていっぱいいっぱいだった。

「みょうじは、」

だから鉢屋くんがどんな表情をしていたか、私は知らない。

「……いや、何でもない」

言い淀んだ鉢屋くんが何を言おうとしたのか、想像もつかない。



「いつも三郎がごめんね」

ホームルームが終わって戻ってきた不破くんは、迷惑だろうと申し訳なさそうにそう言った。それに対し、私は正直に首を横に振る。驚きはするし落ち着かないけれど、迷惑だと思ったことは一度もない。距離を見誤りそうなだけで、本当は嬉しいことだから。

「みょうじ」

気にしないでと、不破くんを安心させようと笑ってみせたときだった。
鞄を持とうとする私の腕を誰かが掴む。見ればそこには不破くんと同じ顔がいて、つまり、鉢屋くんが強い力で私の腕を取っていた。

「ど、どうしたの、鉢屋くん?」
「ちょっと、来い」

そのまま手を離して移動する鉢屋くんに、私はどうすればいいのか。ばちりと目があった不破くんは「悪いんだけど、ついてってあげて」苦笑しながら私の背を押す言葉を口にする。鉢屋くんは既に教室から出ようとしていて、私は慌ててそれを追った。




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