君への距離 03

「どうしたの、みょうじさん」

そう微笑む顔は不破くんそのものだったけれど、彼は確かに鉢屋くんだった。

「……そこ、不破くんの席だよ」
「勿論分かっているとも」

昼休みが終わる少し前に席に戻ると、不破くんの席に鉢屋くんがいた。どうして鉢屋くんが此処に。そのことと鉢屋くんに話しかけられたことにびっくりした私はとりあえず指摘してみるけれど、鉢屋くんは当然知っていると笑うだけだ。いや、そりゃあそうなんだけど。

「それより、よく分かったな」
「そりゃあ……えっと、ただの勘、かな」
「ふぅん。だが……」

分かるよ、と言いそうになって、私は慌てて誤魔化した。だって本当は分かるはずないんだから。鉢屋くんと不破くんは、互いの真似をしたら仲良しの竹谷くんでも分からないんだから。
事実、分かった理由も説明できるものではなかった。なんとなくそうだと思っただけ。強いて言うなら『ずっと見てたから』だろうけど、当然言えるはずもない。
それに納得してくれたのかしていないのか、目を細めた鉢屋くんは、すっと指を伸ばした。鉢屋くんが指した先は鉢屋くんの席、今は不破くんが座っている席がある。鉢屋くんの振りをしているらしい不破くんは、見事に鉢屋くんの言動を真似ていて近くで見てもあまり違和感は抱かないと思う。確かに鉢屋くんとは違うから、気付かないことはないけど。
けれど、鉢屋くんは言う。

「向こうは、たとえば八左ヱ門なんかは、気付いていないみたいぞ」

鉢屋くんの方は向けなかった。
彼がどんな顔をしているか確かめる勇気はなかった。私はなんと応えればいいのか、その答えが見つからない。
こんなに近いと、距離の取り方が分からない。




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