ふたりのための幸せ計画。04

屋上に続く階段の踊り場で、みょうじを抱き締める勘右衛門を発見した。私と兵助は急いで身を隠してその様子を窺う。「どうしたの、勘ちゃん」そう問うみょうじはひどく緊張しているようで、小さな声が震えていた。

「……最近、」
「え?」
「最近、なまえが他の奴とばっか話してるから」
「……寂しかった?」
「寂しかったし、なまえの幼馴染みは俺なんだから、他の奴に優しくしちゃ駄目」
「か、勘ちゃん……!」

『か、勘ちゃん……!』じゃない、感動しているバヤイではないだろう!少し雲行きの怪しい会話に思わず私の頬が引きつる。幼馴染みはここで出てくるべき単語じゃあない、お前たちは愛の告白をしあうために此処にいる筈だ。
そんな私の思いはまったく通じることなく、「分かった?」「うん」みょうじは晴れやかな顔で頷いていた。

「じゃあ、勘ちゃんも、あんまり他の子とばっかり話さないでね。……私も、寂しいから」
「うん、約束する」
「勘ちゃん大好き」
「俺の方が、好きだよ」

だから何故それで付き合わないんだ。
そのまま暫く無自覚にいちゃつきあうのだろうふたりに付き合いきれるわけがなく、私と兵助はそろそろと教室へ戻る。
「……あれは愛の告白だったのか?」違うと分かっているのだろう兵助の質問に肩を竦め、私は深く息を吐いた。

まぁ事実はどうあれ噂が広まればみょうじの望みは叶うのだ、もう、それでいいじゃないか。




蛇足程度に、それから数日後のことを少しだけ残しておこう。

「なまえっ」
「あ、勘ちゃん」

誰にも邪魔されずこの教室へやってきた勘右衛門と、名前を呼ばれたみょうじはそのままふたりの世界に入る。ふたりの仲に割って入る者などいるわけがなく、グループ発表の準備をしていた私と雷蔵と八左ヱ門はみょうじを除いて作業を再開した。「幸せそうでよかったね」と笑う雷蔵は心が広すぎる。
結局休憩時間が終わるギリギリまで居座った勘右衛門は最後に「三郎に気を付けてね」と要らん一言を残して自分の教室へと帰っていった。一体誰のお陰で現状があると思ってるんだ。そう呆れる私に、みょうじが幸せそのものの笑顔を向けてくる。
「ありがとうね、鉢屋」それが心からの感謝であると分かるから、私は頷いてそれを受け取った。やっぱり唯一分かっていない八左ヱ門だけが、首を傾げたままだった。


end


 

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