君への距離 02

私の席は窓際の一番後ろという特等席だ。運動場がよく見える。日当たりも良くて、夏になると暑くなりそう。でも今の時期はぽかぽか暖かくて、午後の授業はちょっと眠くなる。
友達の席の辺りでお弁当を食べて、自分の席に戻って授業開始のチャイムを待つなか、出てこようとする欠伸を噛み殺す。浮かんできた涙を拭うとき、隣からくすくすと笑う声が聞こえた。

「み、見た?」
「いやあ、つい……」
「恥ずかしい……」

苦笑する不破くんに、私は松千代先生のように顔を隠す。そうすると何も悪くない不破くんがごめんねと謝ってくれて、もう私も笑うしかない。

「昼に眠くなるのは仕方ないからね」
「そうなの?」
「うん。そういう風に出来てるんだって」

詳しいことは分からないけど。不破くんがそう言ったところで、チャイムが鳴った。がやがやと喋る声は止まないけれど、その音と不破くんの笑顔で私たちの会話は終結する。
授業に備える不破くんに倣って机の中から教科書やノートを取り出して、前を向いて先生を待つ。前を向くと見えるものがあって、私はこっそりと盗み見た。

(あ、欠伸)

鉢屋くんの席は不破くんと同じ列の、前から二番目。私の席からよく見える場所で、そういう意味でも此処は特等席だった。
大きな欠伸をして周りの生徒に笑われている鉢屋くんは、怒ってみせたりからかい返したりころころ表情を変える。

「三郎は仕方ないなぁ」

隣で苦笑する不破くんの声を聞きながら、私は前を向いたままくすりと笑った。




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